抜こうとしないドライブが抜けてしまう。

大学三年生の時、

 

体育館に”変な人”がいました。

 

 

その人は、部活をやっているわけではないのに、いつも体育館で練習をしていて、

一人で鏡を見ながらディフェンスフットワークの確認をしていたりと何やら不思議な人でした。

 

そのフットワーク自体も、

「普通」のものとはちょっと違って、

なんだか動きがクネクネしている感じ。

 

 

・・・

 

その先輩は、皆さんご存知の武学籠球の慎さんです。

僕の大学の二学年上の先輩で、部活はやめていましたが、当時は「古武術」を学んでいました。

 

その頃の僕は、ひたすら筋トレと自主練(主にドリブル)をしていたバスケ小僧だったので、

慎さんがやっている練習が謎でしかなかったし、「古武術」なんて古臭くてカッコ悪いというイメージでした。

 

 

あれから数年。

 

最近は、またまた慎さんと対戦して「自己崩壊」を繰り返しながら、

「もっと動きの質を高めていきたいなぁ」と思いながらバスケをしています。

 

そして、最近になって、やっと、

あの当時、「変な先輩」だった慎さんを見ていた今から数年前に、

慎さんが言っていた「謎な言葉」の意味が腑に落ちてきた気がしています。

 

 

慎さんは、あの時、こんなことを言ってました。

 

「ドライブは水みたいにやればいい」

「『抜こう!』とするから相手に読まれる。だから『抜こう!』と思わないと抜ける」

 

 

あの当時は、この言葉を聞いても、

「この先輩は何を言っているんだろう」状態。

「抜きたかったら抜こうとしないといけないし、抜こうとしなかったら抜けないですよ!笑」

という感じで、日本語の理解ができませんでした。

 

それもそのはず。

 

自分で体感していないからです。

そして、自分で試していなかったから。

 

 

最近、その感覚が腑に落ちてきた気がします。

今までもずっと試行錯誤してきて、ああでもないこおでもないとやってきているんですが、

ここ最近、「なるほど~。慎さんが言っていたことはそういうことだったのかぁ」と思えるようになってきました。

もちろん、これは慎さんが凄いとかそういう話ではなくて、

 

「自分の身体と対話して動きの質を高めるのは面白い」

 

ということです。

 

 

この前の1対1の様子を動画にしてみました。

あくまで「ハイライト」なので良いところ取りですが、

ドライブの時に、「抜こう!」としなくても抜けているのがわかるかなと思います。

自分としても抜こうとか思わずに、心を静かに、ただ前に進んでいるという感じです。

 

・・・今度は僕の言葉が「謎」になっているかもしれませんね(笑)

 

 

もう一人は慎さんの撮影仲間です。

 

実は、この日は1対1をする予定はなくて、

武学の稽古をしようということで集まってました。

実際、最初の2時間くらいずっと稽古をしていました。

 

 

稽古では、

如何に身体を柔らかくできるか?

如何に思考を介入させない心の状態を作れるか?

ということをやっていたわけなんですが、

 

このこと自体、「謎」かもしれませんね。

 

まぁ大学の頃、中学生高校生の頃の僕だったら、「よくわからん」とか「古臭い」みたいな

そういうイメージで、この世界を知ろうともしていなかったんじゃないかなとは思います。

 

でも、これは日本の武士たちがやっていたことでもあります。

 

僕らは、日本という国に住んでいますが、

どれくらい「日本」について知っているでしょうか?

 

 

僕はNBAを見始めた頃からずっと、「アメリカのバスケが一番だ」と思っていました。

NBAのようなカッコいいプレー、アメリカのストリートバスケこそがバスケットボールなんだと、

これは決して間違っていないし、NBAがそれだけ魅力的だということでもあるんですが、

 

当時の僕は、「だから日本が嫌い」と思っていました。

 

何の根拠も知識もないのに、ただ、

「アメリカのバスケがいい→日本のバスケは嫌い→日本が嫌い→日本人である自分が嫌い」

と思っていました。

 

 

あくまで中学生の思考ですが、当時は、

「もしアメリカに生まれていたらストバスもできたし、ジャンプ力とか瞬発力ももっとあったんだろうなぁ」

とか思っていました。

 

日本のバスケを見る時は、いつでも批判的。日本代表の試合も嫌いでした。

 

そして、そんな国に生まれた自分も、

「日本人っぽいプレー」を嫌っていました。

 

日本人っぽいプレーという言葉すら、単なる自分の狭い世界の言葉だということも知らずに。

 

 

そんな経験を踏まえて、

今は情報発信を通して「日本」を学んでいます。

 

それは決して、

日本が良くて海外がダメ

という話ではなくて、

 

そもそも、自分が育った国の良さを知ることだ第一で、

そうしたら必然的に海外の良さも見えてくるようになる。

 

という話です。

 

 

実際、自分はまさにそういう道をたどっています。

 

 

今回の「抜こうとしないドライブ」とか「稽古」というものも、

日本人的な考え方、日本に古来からあった古武術、時代劇に出てくる侍たちの考え方です。

抜こうとしないとかいう話は価値観的にも、他の国の人たちには「しっくりこない」ものだと思われます。

 

これは日本人特有の価値観で、

根底には、こういう価値観があります。

 

もちろん、NBA選手からバスケを学ぶことも素晴らしいし、

ウエストブルックみたいに「抜く!」という圧を出すのもいいし、

カイリーみたいにドリブルスキルを使って相手を翻弄するのもいいですよね。

 

 

いろいろな選択肢があるから面白いのであって、

「抜こうとしないドライブ」というのもその一つです。

 

どれが良い悪いはないですが、

ただ、日本人の価値観だからこそ腑に落ちる考え方というのがあって、

そういうことを学んでいくと、日本独自のバスケも見えてくるんじゃないかなと思っています。

 

 

少なくとも、実際に体験している僕は、

このドライブがめちゃくちゃ「面白い」と思っています。

 

これは疲れないし、体格や筋力で劣っていても抜けます。

瞬発力の勝負ではないので、足の遅い僕でもチャンスが創れます。

 

 

僕は、ひたすら筋トレとドリブル練習をしてクロスオーバーを練習し続けてきました。

そのことでドリブルの技術自信は身に付いたし、バスケの楽しみも増えたのも事実です。

 

でも、それでは絶対に勝てない相手と出会って、

「このまま、同じ路線で戦っていたら限界が見えてバスケが楽しめないんじゃないか」

みたいなことを感じて、慎さんに連絡を取りました。

 

 

で、今に至ります。

 

まだまだなところは沢山あるし、慎さんと1対1をするとほぼ抜けないし攻めれないし、

ウォーターのつもりがまだまだ硬いから「氷(個体)」状態で変に避けてる感じになってますね。

もっともっと自分とは違う動きをしていたりリズムを持っている人は沢山いるだろうから、これからが楽しみ。

 

 

とにかく、疲れないのが何よりも嬉しい。

 

ずーーーーっと1対1してられそうです。

[arve url=”https://www.youtube.com/watch?v=YYvYKJos8PQ” /]

 

 

PS.

ただこのドライブの感覚はミニバスの子とかに最初から伝えていく必要はないかなと思います。達成感がない分、腑に落ちないし、勘違いして捉えると「一生懸命やること」を否定してしまうかもしれないからです。これは「遠回りをしたからこそわかること」なのかもしれません。イチロー選手の言葉を借りると、「最初から近道を通ろうとしても通れないし、人としての深みがなくなる。今、自分が一番必要だと思うことをやって、後から振り返って、遠回りだと思える経験が大事」ということなのだと思います。特に、勝てない敵と対戦したり、練習量とか技術とかで限界を感じるような経験をした時にこそ、こういう力を使わない世界に興味を持てるようになるものです。なので、「今がそのタイミングだ」と思えるような時に学んでいくのが良いんじゃないかなと思います。自分は今、めちゃくちゃ面白いと思いながらやってます!


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Comments

“抜こうとしないドライブが抜けてしまう。” への3件のフィードバック

  1. […] 相手の腕を払うドライブ、抜こうとしないドライブ、歩くドライブを紹介してきました。言葉だけ並べていくと意味不明で矛盾しているような世界が武術の世界です。それくらい過去の概念とは違った世界があるということなのですが、今までの価値観だけで考えてると「そんなのありえない」「ディフェンスが弱いだけだ」「何が言いたいのかよくわからない」となってしまうのもまた武術の世界です。普通に部活をしていて武術という世界を知らなかったら、なかなか馴染めないのはそのため。全ての人が学ぶべきだ!と押し付ける気は一切ありませんが、お勧めはしたいものです。なぜなら、本当に面白いから。 […]

  2. たつきゅんのアバター
    たつきゅん

    漫画「あひるの空」の中では自然すぎて反応できないシュートがありますがそれはこのドライブと同じ感覚なのかなあ。
    ずっとどういうことかわからなかったのでこの動画を見て何となくわかった気がしたようなしないような。

    1. outofstep30のアバター
      outofstep30

      まさにその言葉の通りだと思います。
      僕も武学籠球さんと対戦しているとそうなります。ディフェンスでも同じように自然体を目指していくのですが、オフェンスもディフェンスも武の価値観で勝負をすると、「どちらがより自然に(滑らかに)動けるか?」が勝敗を分けるポイントになります。動画を見て感じた何となくの理解を体験して腑に落としていくと本当に病みつきになりますよ。

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