今回もハーデンのドライブについて深めていきたいと思います。
前回はハーデンの「相手ディフェンスの腕を払う」という技について解説しました。
ディフェンスは接点から無意識に相手の動く方向を察知したり、腕の力を使って抑えてこようとするため、
その腕を優しく払いのけることで接点をなくしていくと、力を使わずに抜けるというのが相手の腕を払うドライブでした。
あれと同じように、
今回紹介する「蹴らないドライブ」というのも、
大きな力や瞬発力を使わずにスルスル~っと抜けるものなので
「よっしゃ!!抜いてやったぞ!」という達成感を感じられるものではないですが、
力や瞬発力で劣っていても抜けるようになるとても面白いドライブです。
実際、ハーデンはプレーに全力感がないですよね。
なんとなく「だら~ん」とした雰囲気でドリブルをつきながら、
急にスピードを上げたり、急にステップバックをしたりします。
ドライブも同じで、
なんとなく力を使って抜いているというよりは、
するする~っと抜けているシーンが多くみられます。
今回の記事を読むと、その秘密が少し見えてくるはずです。
それでは解説してみます。
◆ハーデンのドライブ
まずは今回の記事で紹介するハーデンの蹴らないドライブは、こんな感じです。
◆ハーデン 蹴らずにドライブ
— NBAで凄いのはダンクだけ⁉︎ (@nbanotdankudake) 2018年5月22日
後ろ足に体重を乗せずに、しれ〜〜っとドライブ。「抜くぞー!」という気合いや雰囲気を見せたら、相手は無意識に身体が反応して対応しやすくなる。「気配を消す」なんて表現がぴったりなドライブ。タイミングをずらす。
pic.twitter.com/zrxgGfERjo
スルスル~っと抜けているのがわかると思いますが、これは「抜いてやる!」という意識を出さず、後ろ足で蹴って「抜く」という動作を相手に見せていないからです。もちろん、その他にもタイミングをずらしているとかシュートの選択肢あるとか試合の流れとか、色々なものが関係しているはずですが、ここでは抜くときの動作について注目していきます。これは「気配を消すドライブ」と表現するのがぴったりなドライブです。
◆ディフェンスの無意識反射
バスケを何年もプレーしていれば、ディフェンスはそれなりに上手くなります。それはある程度、ディフェンスはオフェンスに対応するものだからです。中学校の理科の授業で「脊髄反射」というのを習うと思いますが(今の学校でもたぶん習うはず)、あれと同じ原理で、何年もバスケをしていればオフェンスの動きに対して無意識に体がある程度は反応するようになります。「ドライブに来る!」っていうのはプレー経験が長ければ長いほど察知できるもので、これは意識的というよりも無意識に体が反応するというものです。
なので、オフェンスが「抜くぞ!」とギラギラとしたエネルギー(意識)を相手に向けていたらディフェンスはそれを無意識に察知して「抜かれないぞ」と身構えます。そして、何年もプレーしていれば相手が抜いてくるときのリズムも体に染みついているものなので、抜く瞬間に後ろ足を引くとか蹴るとか、そういう動作が起きた時に体は反応します。抜くときにフロアを蹴ってドライブをする場合は、その瞬間のスピード(瞬発力)やその後の身体のぶつかり(フィジカル)やその後のスキル(ユーロステップやステップバック)で相手を抜くことになります。
◆蹴るドライブ
一般的には、ドライブをするときはフロアを蹴ることでパワーを出してスピードを出します。たとえば、NBAで言えばレブロンやウエストブルックのような選手は、リズムに乗りながら抜く瞬間にフロアを蹴ってドライブをします。レブロンやウエストブルックは抜く瞬間の瞬発力と抜いた後のフィジカルやスキルによってフリーを創り出しています。
LeBron James attacks and converts at the rim… AND-1!#LakeShow 114#FearTheDeer 113
— NBA (@NBA) 2019年3月2日
3:35 remaining on @ESPNNBA pic.twitter.com/vtg6DA9Ak7
ヘジテーションをするときとか勢いを使って攻めるときなどに、こういったドライブが有効です。そして、レブロンやウエストブルックのような瞬発力やフィジカルがあればあるほど、こういったドライブでチャンスを創っていけます。ハーデンのようなドライブもあれば、こういったドライブもあって、どちらが良い悪いの話ではなくて、使い時と個性によるということです。
ただ、こちらのドライブでは瞬発力やフィジカルが必要になるのは確かで、スキルも必要になってきます。瞬発力の勝負になると反射神経が速い方が勝ちやすいし、フィジカルの勝負になるとフィジカルが強い方が勝ちます。そういった部分で勝てる見込みがあればそれを高めるトレーニングをして…という風になるのですが、僕はそれをずっとやってきて限界のようなものを感じました。練習量、瞬発力、フィジカルなどで、圧倒的に自分よりも上の人と対戦した時に「どうやって抜けばいいんだろう…」という壁に当たりました。
そんな時に、別の道があることが大切だと思います。蹴るドライブだけではなかなかチャンスが生まれない、瞬発力もフィジカルもなかなか高まらない、そういった時に別の選択肢があれば一種の逃げかもしれないけど、賢く戦える道だと言えると思います。それが自分の個性に合っていれば、それを採用したらいいのであって、「これしかない」という風になるのが問題なのかなと思います。そんなわけで僕は壁に当たってから、蹴らないドライブ、ハーデンのドライブに出会って、今はそのドライブを楽しんでいます。力がなくても、瞬発力やフィジカルを鍛えなくても、抜ける道を今は究めたいなと思っています。
この前、半年ぶりくらいに5対5をしてきました。
その時にちょうど「蹴らないドライブ」というのをしました。フロアを蹴って「抜くぞ!」というリズムや圧を相手に伝えるのではなくて、蹴らずにそのまま前に進むという感じのドライブ。「いや、そんなので抜けるの?」と思えると思いますが、こうすると相手の無意識反射が起きず「あれ?このスピードで抜いてくるの?」という感覚になって抜けます。これは僕が毎回、師匠の慎さんと対戦しているとなることで、言葉にしてもなかなか伝わらない部分なんですが、言葉にするとこんな感じです。
力を使わず、抜こうとせず、ただ前に進む。
言葉にするとほんと意味不明でポカーンとしてしまうと思うんですが、そんな感じです。抜こうとすればするほど相手は「抜かれないぞ」となるし、相手に守られてしまいます。如何に相手の気が緩んでいる時を狙えるか。如何に自分が抜こうとする気配を相手に悟られないか。そのためには心の部分でも動きの部分でも「自然体」になるのが大事で、戦闘態勢になればなるほど心から動きが早まって相手に圧が伝わります。
自然体で気配を相手に悟られないようにするというのが日本の武術的な考え方で、西洋で生まれたスポーツとはちょっと違う価値観です。ただ、やっているのは同じ「バスケットボール」というスポーツなので、どちらが良い悪いとかで分ける必要はないなとも思います。
ハーデンの場合は、完全に「1対1をする」と相手もわかっている状態から簡単に抜いているのは、タイミングをズラしているからなのかなと思います。当然、ステップバックからのシュートがあるから前重心で守らないといけないとかそういう色々なことが合わさっているんだろうなぁと異次元の世界に感動しつつ、少しでも自分のバスケが面白くなるヒントをもらえたらなと思っています。まだまだ動きの質を高めていきたいと思います!
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