スパーズのオフェンスシステム解説~Motion Offense~

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今回は、サンアントニオ・スパーズのOFシステムを紹介します。

スパーズは、説明不用かと思いますが、毎年必ず好成績を残し、毎年プレーオフに出場する強豪チームです。その安定したバスケットボールは、ポポビッチHCの手腕を中心にして、スタッフや一人一人の選手の意識の高さから生まれているのだと思います。スパーズの選手は個人の能力も非常に高い選手が多いですが、それらを活かしているのは、チームのシステムです。このオフェンスは大学時代にチームで取り入れていたもので、凄く思い入れがあるものです。大学四年にやったあのバスケがなかったら、今こうして情報発信をしていません。

 

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目次

  1. チームプレーを生み出す意識
  2. OFシステム解説

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1.チームプレーを生み出す意識

まずスパーズの特徴は「ボールムーブメント」です。全てのチームがより確率の大会シュートを打つことを目指してオフェンスをしていると思いますが、その中でも特にスパーズは「Beautiful」と表現されるような見ていて美しいバスケを展開しています。そう見ている人が感じるのは、スパースの「パス」にエゴがなく、チームとしてより確率の高いシュートを打とうとしているからなのだと思います。チームプレーのスタートはパス。

スパーズのパス回しを見ていると「あんなバスケしてみたいなぁ」って思えますよね。僕もそう思って、大学時代にスパーズのモーションオフェンスを取り入れました。

でも、本質は「パスを増やす」ことではなくて、「チームとしてプレーすること」であって、パスの回数が重要ではないということを認識することが大切だと思います。あくまで1対1があって、そこからズレが生まれて、結果的にパスが回ってフリーが生まれる。それに、これだけパスが回るということは「ディフェンスもそれだけローテーションをして守ってきている」ということです。ディフェンスも世界最高峰のNBAだからこそ生まれるプレー。

この部分を見落としてしまうと、一人ひとりがゴールに向かう意識が薄くなってしまったり、シュートを躊躇してしまったり、ただショットクロックだけがなくなってしまったりします。あくまで自分のシュートを第一に考え、より確率の高いフリーがあればパスを回す。ただスパーズのバスケを見るだけなら映像を見て楽しめばいいと思うのですが、もし少しでもこういうバスケを実際にやってみたいと思ったら、こういう文脈まで見ていくことが大事だと、実際にスパーズのオフェンスをやってみて思います。

 

 

2.OFシステム解説

では、具体的にスパーズのオフェンスシステムがどうなっているのかを解説していきます。

まず、スパーズのオフェンスシステムは「Motion Offense」を中心に行われています。モーションオフェンスとは、ある程度の決まり事があり、それを基準にディフェンスに対応してオプションが分岐していく自由度の高いオフェンスです。イメージは樹系列で、以下の図のような形です。※「コンセプトとしての理解」、「セット」「プリンストン」については別の動画で後日解説していきます。

なので、「相手がこうきたらこうする」というのがチームで共有しやすく、同じイメージを持ってプレーすることができます。スパーズも一つのアクションから様々なプレーに分岐していっていますが、「選手の個性に合わせてオプションを創る」というのと、「ディフェンスに対応した結果、違うオプションを選んでいる」という2つがあると思います。あくまでディフェンスとの駆け引きがあって分岐していくもので「ディナイされたらこうする」みたいなものもある程度決まっているように見えます。この辺は僕が今やっている「バックカットの体系化」で深めている「ディナイ(バックカット)をアクションにして次のプレーに繋げていく(プリンストン)」とはまた少し違った視点なのかなと感じています。

 

◆Motion Weak

①モーションオフェンスの基本形

まずモーションオフェンスの基本は、以下の画像のようにしてボールマンとウイングプレイヤー(2と3)で「三線」の形を作ります。この時、4はボールマンとは逆のサイドを走り、ボールマンからパスを受けられるようにな準備をします。この状況でDFが崩れていたら、パスを受けた選手、もしくはボールマンが自由に1対1をすることができます。

weak1

②Weakサイドにパス

この状況でボールマンがWeak sideにパスを出したら、Motion Weakに入ります。センターの4はボールサイドに移動してパスを受ける準備をします。パスを受けたウィングプレイヤーは、自分で1対1をする・ローポストの4にパスを出す・トレーラーの5にパスを戻すの選択肢の中からその場で有効になるであろうものを選びます。5番にパスをしたらMotion Weakの次のアクションが進んでいきます。

weak2

weak3

③ウィングプレイヤーのクロススクリーン

トレイラーの5を経由して1がボールを受けようと移動してきたタイミングで、ウィングプレイヤーの3はセンターの4にクロススクリーンをかけます。流れを止めずに、5は1にパスを出します。ここで一つのスクリーンプレーが起きているので、4のポジションでシュートを打つチャンスが生まれます。

weak4

weak5

④5のダウンスクリーン

クロススクリーンをかけて3は、その後トレーラーの5からスクリーンをもらいます。ここで連続して「クロススクリーン→ダウンスクリーン(Flex action、STSなどと呼ばれるスクリーンプレー)」が起きることでDFはかなり守ることが難しくなります。

weak6

 

【Motion Weak 実例】

 

 

◆Motion Strong

①モーションオフェンスの基本形
※weakと同様weak1

②Strongサイドにパス

ボールマンがStrong sideにパスを出したら、Motion Strongに入ります。DFの状況を見て1対1を狙いながら、トレーラーにパスを出して、トレーラーはそのまま逆サイドのウィングプレイヤーにパスをします。

strong1

strong2

③ダブルスクリーン

ガードの1とトレーラーの5で、ウィングプレイヤー2に対してスクリーンをかけます。この時、スクリナーの選手はウィングプレイヤーのDFに向かってスクリーンをかけることが大切です(スクリーンプレーの基礎)。また、トレーラーのスクリーンの位置が高くなりすぎると、2がシュートを狙うことができないため、エルボーあたりでスクリーンをかけることもポイントです。この後は、動画を見てもわかるとおり、自由にHornsや2Men gameに入り、流れを止めないようにプレーを繋げていきます。

strong3

【Motion Strong 実例】

 

◆Motion Loop

次はMotion OffenseのZipper cutから始まるシステム。これはトニー・パーカーが得意とするもので、Zipper cutをした後にガードに対して3人がスクリーンをかけるオフェンスです。このようにエンドライン側で3人が一人に対してスクリーンをかけるスクリーンプレーを「Floppy」と呼びます。

①Zipper cut

Loop1

②ウィングプレイヤーにパス

Loop2

③ガード1に対してトリプルスクリーン(Floppy)

この時ポイントは、スクリーンの基礎の通り、ガード1に対してではなくて、ガード1のDFに対してスクリーンをかけること。また、ポイントは(この画像だと)左サイドでスクリーンをかける3と5の位置です。3が5よりもゴールに近い位置でスクリーンをかけることで、ガード1がパスを受けられなかったときに、両サイドのスクリーン(4・5)を使って3が次のパスを受けることができます。そうすることで流れが止まらずにプレーを繋げることができます。

 

 

以下はMotion Offense以外のスパーズのオフェンスを紹介します。

●Hammer Set

ボールがない方のサイドでフレアースクリーンをしてコーナーで3Pを狙うシステム。いつ見ても美しいオフェンス。コーナーの選手に対する”さりげない”スクリーンも一流のNBA選手ならではのプレー。パサーは、ほとんど体がエンドラインを越えた状態でパスを出すのでDFはスティールをすることはできません。

 

●Shuffle (Slice Stagger) Motion

次々と連続してスクリーンプレーが行われるシステム。最初はバックスクリーンからのアリウープを狙い、その後にセンターに対してスクリーンをかけ、最後にダブルスクリーンと繋がっていきます。個人的に見ていて面白いので好きなセットです。ポイントは、一つ一つのスクリーンプレーでDFに対応されたとしても、流れを止めることなく、次のスクリーンプレーを開始していくというところ。どのオフェンスシステムでも共通する基礎ですね。

 

●Wedge Roll

パーカーがボールマンとなり、オンボールスクリーンを効果的に行うシステム。トレーラーの選手に対してウィングプレイヤーがスクリーンをかけて、トレーラーがボールマンにスクリーンをかけることで、トレーラーのDFは二つ目のスクリーンの対応に遅れます。また、最初にスクリーンをかけてウィングプレイヤーは、その後コーナーに移動して、コーナーでもシュートのチャンスを作ろうとしています。それぞれが得意なプレーを活かすシステム。

 

●Hawk Action

トップの選手にバックスクリーンをかけた後、ボールサイドでオンボールスクリーンが起き、逆サイドではダブルスクリーンを起こすシステム。

主なオフェンスシステムは以上です。

基本的にはモーションオフェンスが行われていて、これは個人的な基礎力(ドリブル、ハンドリング力、フットワーク、シュート力)があり、スクリーンプレーの基礎をきちんと理解していれば日本の高校生以上のチームなら真似できるものです。何となく空いているところにパスを出している、何となく動き回って1対1をするフリーランスオフェンスよりも、自由にプレーすることができる可能性があります。実際に大学四年生の頃にこれをやってみたら、僕もチームメイトも「今までとは違う競技をしているみたい」と思えるくらい、バスケットボールの自由度や楽しさに大きな違いがありました。その頃の映像は今、編集中なので動画にできたらYoutubeで共有します。お楽しみに!

 

 

◆スクリーンプレーのポイント

・スクリーンを丁寧に使う

スパーズのオフェンスを見ていると、ディフェンスの位置に合わせて丁寧にスクリーンを使っているのがわかります。モーションオフェンスの動画を学ぶ良さは、一つのスクリーンプレーからどういう駆け引きがあるかを学べるところです。スパーズのモーションオフェンスを採用していなかったとしても、「クロススクリーンの駆け引き」みたいな感じで部分を切り取れば、他のオフェンスシステムでも応用できます。そういう意味でも、こういう風に動き方をある程度決めた方が相手に対応しやすく、より自由度が高くなるのかなと思います。

・ゲームの流れを止めない

そして、「スクリーンをあえて流して使う」ということも大切です。なぜなら、毎回のスクリーンプレーが成功するとは限らないし、一つのスクリーンプレーに固執してしまうとゲーム全体の流れがなくなり、オフェンスが重たくなってしまうからです。スパーズの動画を見ていても、スクリーンを丁寧に使う時もあれば、流して使う(次のプレーに繋げる、スピードを出してズレを作る)という場面もあります。この辺りはチームのコンセプトは試合の流れによって変わることですが、この視点も忘れずにオフェンスを創っていくことが大事だと思います。流れを重視したオフェンスについてはウォリアーズのオフェンスを参考にしてみてください。ゴールデンステイト・ウォリアーズ Flow Offense

 

 

僕はこのMotion Offenseの動画を見た時、スパーズのオフェンスの謎が解けたように思って感動しました。で、何度も何度も繰り返しこの動画を見て、「これってどういう風に分岐していってるのかな?」「なるほど、ここで先読みされたらこうやって対応すればいいのか」「この時はちゃんとボールを受けられるようにシールしてるな」「ここで相手がこうやって守ってきたらどうしたらいいんだろう?」「ここでこの選手が良い合わせをしているからフリーができてるな」みたいに、一つの動画をいろんな角度から見ました。そうすると、一つのオフェンスシステムを実際に実践する上で大事なことが見えてきて、それを元にチームを創っていくことができました。

NBAと自分たちのバスケは身体能力も1対1の技術力も練習環境も、すべてが違いすぎるので全く同じことをするのはもちろん不可能なことではありますが、きちんと「自分事」にして「自分だったらこの場面でどうしているか」「どうやったら今のチームに落とし込めるか」という視点で見ていくと、必ず応用できることがあります。僕らはこのオフェンスを半年間である程度の完成させました。僕らの大学はキャンパスが4地区に分かれていることもあり、週に2回(土日)しか一緒に練習できない環境でした。でも、きちんと共通理解をもってチームとして練習を積み上げていけば、少ない練習量でもチームを変えることができました。

 

この発信は「NBAの解説書を作る」のが目的ではなく、あくまで「NBAをきっかけに上手くなる」ということが目的なので、今後もこういう形で自分が実践したことをベースに学べたことを発信していきたいと思います。スパーズのバスケはいつ見ても「Beautiful」だし、バスケットボールの醍醐味が詰まっていますよね。個人的にはNBAで優勝しなくてもいいから、このままポポビッチのスタイルを次の世代でも引き継いで、「スパーズらしいバスケ」を進化させながら見せ続けてほしいなと思っています。もちろん、優勝してくれたら最高に嬉しいので、今後もスパーズを応援していきます!長い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

PS

僕自身がスパーズのバスケを応用したことでバスケットボールの価値観が大きく変わったこともあり、スパーズに関しては想い入れが強いです。今でも一番好きなチームで、今年も応援しています。スパーズのオフェンスシステムは見ていて感動するほど美しいし、それを応用できたことは人生の中でも最高に楽しい時間でした(形だけではなくてスペーシングやスクリーンプレーの細かいところをNBAから学んだからこそ応用できました)。この発信の全てにそれらの経験が活かされています。NBA選手、スパーズ、大学のチームメイト、インターネット、全てのおかげです。ありがとう!!

動画を全て見たら、たぶん学校の授業よりも多いですよね(笑)一つの授業だと思って参考にして頂けたらと思います!NBAはやっぱり楽しいし、チームプレーは、バスケはやっぱり深くて楽しい。大学時代の映像は今(2021年2月)に掘り起こしてきて編集しているので、きちんとまとめてYoutubeか何かで公開したいと思います。今見返しても、あの頃のバスケは参考になるし、とにかく本当に楽しい時間でした。大学のチームメイトたちに感謝。

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    • shirou
    • 2017年 7月18日

    ウィークサイドとストロングサイドという用語はいろいろな使われ方がしていると思いますが、アーリーオフェンスでの使用では「ボールマンから見て、狭い方のサイドがウィークサイド、広い方のサイドがストロングサイド」ということがわかりました。ありがとうございました。

    • shirou
    • 2017年 7月14日

    楽しく拝見しております。

    モーション・ウィークとモーション・ストロングと呼ぶさいのウィークサイドとストロングサイドは何のことを指しているのでしょうか?

      • バスケのヨシ
      • 2017年 7月15日

      こんにちは。
      コートを半分に分けてボールマンから見て、狭い方のサイドがウィークサイド、広い方のサイドがストロングサイドです。狭い方にパスを出せばモーションウィーク、広い方に出せばモーションストロングが開始するのが基本形です。

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