バスケットボールはボールを持っていない時間が長いスポーツです。そのボールを持っていない時間帯に、味方を活かすスペースを作りながら、自分のディフェンスから優位になれる位置に合わせられるかどうかがオフェンスの質(シュートの質)に関わります。どんなに高いシュート力や高い1対1能力があったとしても、オフボールの合わせが下手だったらその能力を発揮することはできません。また、オフボールの合わせが上手ければ1対1の能力が低かったとしてもシュートチャンスを創ることができます。オフボールの合わせは1対1やシュート力と同じくらい、重要なバスケットボールの技術です。
オフボールの合わせ(原理原則)
オフボールの合わせの原理原則を解説していきます。以下のポイントを押さえて合わせると、基本的に良い合わせになります。ここでいう「良い合わせ」とは、アウトナンバーが生まれる状態であり、味方もしくは自分自身の良いシュートに繋がる合わせです。
1.味方との適切なスペースを保つ
2.自分のディフェンスに正対する
3.ボールマンを見て次のプレーを予測する
4.ディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる
5.ボールマンの視野の中に入ってシュートが打てる態勢を作る
1.味方との適切なスペースを保つ
まず始めに、スペーシングが重要です。バスケットボールにおける適切なスペーシングは「5m~6m」とされています。隣の味方との距離が狭すぎると、ディフェンスが一人で二人を守れてしまうので、仮にボールマンがドライブなどで1対0を作ったとしてもアウトナンバーが生まれなくなってしまいます。まずは隣の味方との適切な距離(スペース)を保つことが大切です。
スペーシングの基礎「MacKay Spacing」
この際、一つの基準として、カナダのナショナルチームの育成ディレクターであるMike MacKay氏が用いている「6分割のスペーシング」というものがあります。以下の図のように、ハーフコートを6分割に分けた時、一つの区域に2人以上のプレイヤーがいてはいけない、という基準です。

この基準に従ってプレーしていると、基本的に良いスペーシングのオフェンスになります。
ただし、例外として、スクリーンプレーやDHOが起きる場合は一つの区域の中に2人以上のプレイヤーがいることになります。また、ドライブの後などで一つの区域の中に2人以上のプレイヤーがいる場合がありますが、その際は「Clearout(自分のディフェンスにスクリーンをしてドライブスペースを確保するプレー)」などをしてスペースを作ることもできます。

この基準は特に育成年代の選手にスペーシングの概念を伝える際に活用できます。
※Mike MacKayさんのスペーシングについての解説動画は以下からご覧ください。
スペースの破壊と創造
Mike MacKayさんの「6分割のスペーシング理論」は、選手の成長段階としてスペーシングの概念がなく動きすぎてしまう場合に伝えるといいもので、Pick&Rollなどをする際の基本的なスペーシングとして当てはまる理論です。しかし、実際の試合は「スペースを保つ」だけではチャンスを創ることは難しくなります。
スペーシングには「スペースを保つ(適切な距離を保つ)」と「スペースを壊す(空いている空間に入る)」という2つの概念があります。これを言葉にすると「スペースの破壊と創造」といいます。
具体的なプレーとしては、スペーシングを保つだけではチャンスが作れない場合は、バックカットなどでスペースを壊す(破壊)をすることで、新たなスペースを創る(創造)必要があります。この結果生まれるのが「ダブルパンチのチャンス」です。


オフボールの合わせは、こういった「破壊と創造」を繰り返すことでチャンスを創り、1対0のアウトナンバーが生まれているポジションを活かすことを考えて動くことが大切になります。その結果、ドライブに対してのサークルムーブやポストアップに対するカッティングが生まれます。
2.自分のディフェンスに正対する
次に、オフボールの合わせにおいて大切なことは「自分のディフェンスに正対する」という事です。これも多くの選手が忘れてしまうことなのですがとても重要です。要するに、オフボールにおいても「自分のディフェンスと1対1をする」という事です。
特にバスケを始めてすぐの選手などオフボールの合わせが上手くない選手の多くは、オフボールの際に自分のディフェンスではなく、ボールだけを見てしまいます。ボールマンはオフェンスの起点になることが殆どなので、ボールマンを見ることはもちろん大切なことなのですが、それ以上に大切なのは自分のディフェンスに正対して意識を向けることです。
バスケットボールは5対5で行うスポーツですが、一人ひとりが目の前のディフェンスと駆け引きをする必要があります。言葉にするなら「1対1×5」という状態でプレーするのがバスケットボールだと僕は考えています。ボールマンはもちろん目の前の相手との1対1を真っ先に考えてシュートを狙うことが基本ですが、オフボールにおいても同じ意識が必要です。
視野の重要性「ボールマンとマークマンを見る」
オフボールの合わせにおいて、ミスになるパターンは、カッティングなどをした後に自分のディフェンスやボールへの意識が一瞬無くなってしまうことです。つまり「視野」が切れてしまう状態です。これはよくあるミスのパターンなのですが、どのような状況だとしても、常にボールマンと自分のディフェンスに目線と意識を向けることをしなければいけません。
例えば、以下のようなカッティングを行った際、良くない例としてはカットをしている最中に自分のマークマンへの意識が無くなってしまうパターンです。また、カットをした後にコーナーにステイする際もコートの外を見るような向きで視野を確保している(つまり、ボールから目を切っている)というパターンです。これをしていると、自分のディフェンスがポストマンにダブルチームされたことに氣付けず、ボールマンのパスの出し所が無くなり、アウトナンバーを作れなくなります。


このように、「視野をコートの外や足元に向けていて、コートで起きている状況(ボールマンの状態と目の前の相手の状況)を把握できていない状態」を僕は「バスケットボールをプレーしていない」と呼んでいます。つまり、「コート上に物理的にいるけれどコート上にいないのと同じ状況(感覚的には「4対5」をしている感覚になります)」という事です。
このプレーに関して言えば、正しいオフボールの合わせとしては、自分のディフェンスがポストマンにダブルチームに行った瞬間(つまり、自分へのマークを外した瞬間)にパスを受けられる位置に合わせるべきです。

合わせの位置は以下の図のようにゴール下で合わせるか、コーナーに広がってパスを受けるかは場面によって変わりますが、いずれにしても、自分のディフェンスが自分のマークを外した瞬間(ダブルチームに向かった瞬間など)にアクションを起こさなければいけません。
良い例として、NBAの実例を紹介します。
◆超重要な基礎
オフボールの「視野」
— 原田毅@NBAで凄いのはダンクだけ!? (@nbanotdankudake) January 28, 2024
・ボールから離れる時も常に自分のマークマンとボールマンを意識しておく
・自分のDFが少しでもダブルチームに行こうとしたらボールを受けられるポジションに合わせる
視野と意識pic.twitter.com/6vg7P7jkDT
◆レブロンのパス
— 原田毅@NBAで凄いのはダンクだけ!? (@nbanotdankudake) January 28, 2024
絶妙、上手すぎる
カッターの視野もお手本#NBAはバスケの教科書 pic.twitter.com/qglJrR3HO0
これは、ハーフコートオフェンスに限らず、オールコートのダブルチームへの対処法としても基礎となることです。自分のマークマンへの意識がない状態で何となく走っていると、自分のディフェンスがダブルチームに行ったことに氣付けず、ボールマンへのサポートが遅くなってしまいます。常にボールマンと自分のマークマンに意識を向ける(視野を向ける)ことが大切です。
3.ボールマンを見て次のプレーを予測する
先ほど解説したことに繋がりますが、オフボールにおいては常にボールマンと自分のマークマンに意識を向ける(視野を向ける)ことが大切です。その際、ディフェンスの対応を見てから判断するのではなく「予測」しておくことがとても大切です。
自分のディフェンスはボールマンにダブルチームに行こうとしているのか、していないのか。どのディフェンスがヘルプに行こうとしているのか。味方がカッティングをしたらどこにスペースが空くのかなど、次のプレーを常に予測してプレーすることで、瞬間的なチャンスを活かすことができます。アメリカやヨーロッパ圏でも「Watch&React」ではなく「Read&React」という言葉が使われますが、大事なのは見ることよりも「Read(予測すること)」です。
4.ディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる
味方との適切なスペースを保ち、ボールマンと目の前のディフェンスに正対して、次のプレーを予測した状態で準備できたら、次に行うのは「自分のディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる」という事です。これをもっとシンプルな言葉にすると「自分のディフェンスから1番遠くの位置に合わせて1対0を作る」という事になります。
「ディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる」とは、つまり、「2対1のアウトナンバーを作れる位置に合わせる」という事になります。この言葉は僕自身がオフボールのプレーについて10年以上研究してきて自分自身で実際にプレーして「良い合わせ」になるプレーを言語化したものです。
この感覚でプレーできると、どのような場面だとしても適切なタイミングで適切なプレーを選べるようになります。また、ボールマンと目の前のディフェンスだけではなく、隣にいる味方も視野に入るようになり、味方に対して適切な指示を出せるようにもなります。
具体的なプレーについて解説します。
よくある例として、以下の図のように、ボールマンがミドルドライブをした場合について考えていきます。この時、適切な合わせとしては「サークルムーブ」と呼ばれる合わせになるのですが、一人ひとりの判断としては、トップにいる選手(2)は「自分のディフェンスが1人で2人(ボールマンと自分)を守れない位置」に合わせます。そして、ウィングにいる選手(3)も「自分のディフェンスが1人で二人(2と自分)を守れない位置」に合わせます。

結果的にサークルムーブという合わせになっているのですが、本質は「目の前のディフェンスとの1対1」であり、「自分のディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる」になります。
この感覚でプレーしていると、仮にウィングの選手(3)がスペーシングの概念がなくて合わせが上手くない場合でも、トップにいる選手(2)がウィングの選手(3)を押し出す形で左手でコーナーに移動するように指示を出しながら合わせられるようになります。自分が良いスペーシングでプレーできるだけではなく、隣にいる味方のプレーの質もより良くしていくことができる選手が本当の意味で「オフボールの合わせが上手い」と言えるのではないかと思います。
ズレ(アウトナンバー)はどこから生まれるのか?
オフボールの合わせにおいて、合わせるべき優先順位が高い選手は「ズレが生まれている隣の選手」です。特にそこにいる選手は良いスペーシングを保って合わせられるように準備する必要があります。
例えば、以下のような状況で2と5のスペースが狭い状況だったとしても、ズレ(1対0のアウトナンバー)が生まれている隣の選手(3)が適切な早生ができればフリーを作れます。ズレが生まれているポジションを中心にそこから波紋が広がるようなイメージで、5人が「自分のディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる」という事をしていくと、結果として良い合わせになって、良いシュートに繋がります。

どこにズレがあるか、ディフェンスはどこにヘルプに向かおうとしているかを予測しながら合わせることで、どのような場面でも良い合わせができるようになります。
ディフェンスの背中をとる(死角を狙う)
「自分のディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせる」上で、ポイントになるのは「ディフェンスのディフェンスの背中をとる(死角を狙う)」という事です。「背中をとる」とは、ディフェンスの死角となる背後にポジショニングをとることです。
その結果、ドライブに対しては「サークルムーブ」というプレーが、ディナイに対しては「バックカット」というプレーがその状況における適切な合わせになります。
ディフェンスの死角を狙うことができれば、ディフェンスは自分のマークマンを常に氣にしないといけない状況になり、ボールマンと自分のマークマンの両方を守ることが難しくなります。自分のディフェンスに意識を向けることができるようになると、ボールマンよりもリング方向に対する意識が生まれるので、「インライン(自分とリングを結んだ線)にディフェンスがいるかいないか?」ということを常に意識できるようになります。その結果、カッティング(バックカットorフロントカット)のチャンスを見逃さなくなります。
5.ボールマンの視野の中に入ってシュートが打てる態勢を作る
最後に、合わせる時は、ボールマンの視野の中に入ることが基本です。また、その際、常にシュートを打てる態勢で(気持ちで)合わせることが大切です。バックカットにしてもサークルムーブにしても、どんなに良いタイミングで目の前のディフェンスを振り切って1対0を作れたとしても、当然、パスを受けることができなければ得点のチャンスを創れません。
バックカットを例にすると分かりやすいのですが、あくまで、オフボールの合わせは「ボールマンがパスを出せるタイミングで適切な合わせをする」というのが大切です。よくあるバックカット(オフボールの合わせ)のミスパターンとして、ボールマンのことを考えず、自分のタイミングでカッティングをしてしまうことがあります。これは味方への氣遣いがないカッティングでパスが出せないので1対0を作れていたとしても相手にとっての脅威(「シュートを決められる」という心理的ストレス)になりません。
味方との適切なスペースを保ち、自分のディフェンスと正対して、自分のディフェンスが1人で2人を守れない位置に合わせて、ボールマンがパスを出せるようなタイミングで動く。これらを意識して合わせると、どのような場面でも良い合わせができるようになります。
ディフェンスとの鬼ごっこ
以上のポイントの抽象度を上げて、よりシンプルな言葉で、適切なオフボールの合わせを説明すると「ディフェンスと鬼ごっこをする」という言葉になります。これも僕自身が実際にプレーで検証してみた結果、言語化されたものです。小学生や中学生など育成年代の子ども達にオフボールの合わせを伝える際は、この言葉を使うことをお勧めします。
ディフェンスを「鬼」として見立てた時、適切なオフボールの合わせは「ディフェンス(鬼)に捕まらない位置に合わせる」ということになります。もう少し抽象度を下げると「ディフェンスから1番遠い位置に合わせる」ということになります。
ディフェンスが自分から離れるような動きをすればステイをしてディフェンスとの距離を広げ、ディフェンスが自分に向かってくるような動きをすればカッティングをしてディフェンスとの距離を広げる。こういった感覚でプレーしていると結果的に良い合わせになります。
オフボールの合わせは、より良いシュートを打つためにとても重要です。
一人ひとりが適切な合わせをすることで、結果として、コート上に良いスペースが生まれ、良いシュートに繋がります。バスケットボールは5人で行うものですが、ボールを持っていてもいなくても、目の前の相手に正対して「1対1×5」という状態でプレーすることでより良いオフェンスを創れます。
