Princeton Offenseとは

まず、Princeton Offenseの概要について。

Princeton Offenseとは、プリンストン大学が創り上げたオフェンスのことです。プリンストン大学は大学ランキングで世界トップ10入りするほど優秀な学生が集まる大学で、バスケットボールにおいてはUCLA大学やデューク大学ような名門校のようなリクルートができない環境でした。リーグとしては「IVY League(アイビーリーグ)」に所属していて、ハーバード大学やイエール大学などアメリカの伝統ある私立大学が集まるリーグです。

 

Princeton Offenseが有名になったのは1996年のNCAAトーナメント。NCAAトーナメントとは全米選手権のことで、当時13位シードだったプリンストン大学は前年度優勝校のUCLA大学(2位シード)に43対41で勝利を収めました。多くのNBA選手を輩出している名門UCLA大学をプリンストン大学が破ったことは世界中を驚かせました。この勝利をキッカケに、プリンストン大学のバスケットボールに興味を持つコーチが増えて「Princeton Offense」という名前が世界的に広まったと考えられます。

 

この試合は現在でも「伝説の試合」として語り継がれています。

当時のプリンストン大学を指揮していたのがPete Carrilさんです。

 

Pete Carrilさんが残したもの

Pete Carrilさんはバスケットボール界のレジェンドであり、Princeton Offenseの創始者です。

残念ながら昨年2022年8月16日(日本時間)91歳でこの世を去ってしまいましたが、Carrilさんがバスケットボール界に与えた影響は計り知れません。実績もさることながら、Princeton Offenseというバスケットボールの一つのモデルを体系化させたこと、その他にも現代バスケットボールの基盤を創ったともいえるほど多大な影響を与え、素晴らしいバスケットボールと信念を後世に残しました。実績と合わせて、Carrilさんの功績を紹介します。

Wikipediaより

 

Princeton Offenseが世界的に有名になったのは1996年。これはCarrilさんがプリンストン大学のHCに就任してから30年目のことでした。

 

30年間、一つのチームを率いて、様々な試行錯誤の結果、ようやく出来上がったのがPrinceton Offenseです。この部分を見ずに表面的な「動き方」だけを真似しても、絶対にPrinceton Offenseの本質はつかめません。「情熱の継続に勝る才能なし」という言葉があるのですが、まさしく、Carrilさんが貫いたことは「情熱の継続」だったのではないかなと僕は思います。一つのことを徹底的に練り込む、壁が出てきたとしても試行錯誤して乗り越えていく。そうすることで初めて、誰にも負けない武器や個性が創られるのではないかと思います。それがたとえシンプルなことだったとしても。

 

また、CarrilさんはUCLA大学との伝説の試合を終えた次のシーズン、NBAのSacrament KingsのACに就任しています。Sacrament Kingsと言えば、2000年代前半、「NBA史上最も美しいバスケットボールの一つ」と呼ばれるくらい華麗なオフェンスを裕していたチームです。実は僕がNBAを見始めたのはちょうどこの頃で、この時のKingsが大好きでした。当時、NBAを制覇していたLos Angles Lakersとの死闘は歴代プレーオフの中でも最も熱いシリーズの一つであり、この当時のKingsを支えていたのがPete Carrilさんでした。

 

 

全員がパスが上手く、見ていてワクワクするバスケットボール。

自分が初めて好きになったNBAのチームにPete Carrilさんが関わっていることを知るのは、ずっとずっと後のことでした。Princeton Offenseを初めて知った時に受け取ったあのなんとも表現できない感動、バスケットボールの美しさは、僕自身のバスケットボールの原点を思い出させてくれるものでした。

 

そういった経緯からも、僕の人生にとって、Pete CarrilさんとPrinceton Offenseは出会うべくして出会っているような感覚があります。本当にあの時のKingsのバスケットボールは美しかった。今でもああいうバスケットボールを僕は創っていきたいし広めていきたいと思っています。

 

Princeton Offenseの代名詞「バックカット」

Princeton Offneseの代名詞は「バックカット」です。

ディフェンスの背後をカットしてリングに向かうプレー。バスケットボールの基礎であり、誰でもできるプレーです。しかし、プリンストン大学ほど、このバックカットを深めたチームは他にありません。

「プリンストンと言えば、バックカット」というのが世界共通の認識になるほど、Carrilさんと選手たちはバックカットを深めていたのだとプレーを見ていると感じます。実際、プリンストン大学は白黒映像の頃からバックカットをやっていたことがわかります。

 

僕が調べた限り、最も古いプリンストン大学のバックカットの映像はこちらです。

また、伝説の試合(UCLA大学に勝利した試合)でも、最後のWinning shotは「バックカット」でした。

このプレーはあまりにも有名でセット名として「The PLAY」と呼ばれるほどです。

※引用:Princeton vs. UCLA: 1996 First Round | FULL GAME

 

賢者は強者に優る

Carrilさんが残したものはPrinceton Offenseだけではありません。

「The smart take from the strong(賢者は強者に優る)」これはCarrilさんが小さい頃に父親から言われていた言葉です。この言葉をどのように和訳するかでニュアンスが変わってしまうのですが、書籍『賢者は強者に優る』の中では「賢者は強者に優る」や「賢者は強者をも支配できる」といった言葉で訳されています。ただ、「take from」という英語のニュアンスとしては「引き継ぐ」といった意味があります。これは英文のまま解釈して、実際に自分たちでPrinceton Offeseを実践して、言葉の意味を腑に落としていくことが大切だと僕は思っていて、個人的には「賢者は強者を”包越する”」というニュアンスで捉えています。

 

「包越」とは、踏まえて乗り越えるという事です。つまり、ただ単に競技として「強者に勝つ(打ち負かす)」という意味ではなく、「強者の良さも引き継ぎながら、強者のバスケットボールをも進化させる(強者を含みながら超える)」という意味があるのではないかと思っています。

もちろんこれはCarrilさん本人に聞かなければ分からないことで、もう直接お聞きすることができないので真意は分かりませんが、僕らはCarrilさんが残してくれた言葉やPrinceton Offenseというモデルを通して「The smart take from the strong」を体現していくことが大切なのではないかと考えています。Princeton Offenseに魅了されて、Princeton Offenseを通してバスケットボールをより良くしようとしている一人の人間として。

 

また、この言葉は単にバスケットボールに関することだけではないことが原文を読むと分かります。

私の父は、スペインのカスティーヤ地方、レオンの出身で、ベツレヘム鉄鋼会社で溶鉱炉工として39年間働いた。父は、毎回、仕事にでかける前に、賢く生きることの重要性を私や姉(妹)に説いた。「この人生において」と彼は始める。「大きくて強い者は、常に小さくて弱い者を支配している。しかし、賢き者は強い者をも支配できる」と。そして、ドアのそばで頭を指差し、「ここを使え」といったものだった。以来、この言葉は、私のコーチングのテーマとなっている。バスケットボールに関する自分の考え方や経験を書き記そうと思いはじめたとき、ぜひ、タイトルにこのテーマを反映させたいと考えていた。すばらしい基礎技術を持ち、知的で懸命なプレーをする者は、おのずとトップ選手となるものである。

 

「この人生において、”賢者は強者に優る”である」

これが父親からの言葉だったそうです。

 

Princeton Offenseはバスケットボールのモデルであり、プリンストン大学が体現したように強者(自分達よりも強いチーム)に勝つためのバスケットボールとも言えますが、それだけではなく、バスケットボールを通して人生にもより良い影響を与えてくれるもの。

僕自身、Prineton Offenseを自分でもプレーしていて、指導もしていますが、バスケットボールの価値観が変わり上達したことだけではなく、間違いなく「人生」にもより良い影響を与えてくれていると感じます。関わる選手たちもプリンストンを通して、人間性も成長しています。

 

Prineton Offenseを学び、発信する者として、単に動き方を伝えるだけではなく、Pete Carrilさんの想いや信念も合わせて伝えていきたいと思います。受け取る皆さんにも、Pete Carrilさんのバスケットボールへの向き合い方、その想いを受け取ってほしいと願っています。

 

 

プリンストンは現代バスケットボールの基盤を創った

Princeotn Offenseは現代のバスケットボールの基盤を創ったと言えるくらい、今のバスケットボールに大きな影響を与えてます。

具体的には、Princeton Offneseの特徴として以下のようなことが挙げられるのですが、これらは現代バスケットボールの基礎と言える(当たり前に行われている)ものではないでしょうか。

・センターがアウトサイドでプレーする

・スリーポイントの試投数が多い

・様々なアクションを含んでいる

 

Princeton Offenseは4ou1inで行われるのですが、プリンストン大学のセンターは「プレーメイク」ができる選手でした。つまり、パスを出したりスクリーンをしたり出来る器用な選手で、そういったバスケットボールの基礎(ドリブル、パス、シュート)を全員が身に付けていました。現代ではセンターがアウトサイドでプレーするのは当たり前であり、必須ともいえることですが、当時としては珍しく、プリンストン大学の特徴の一つでした。なぜそうしていたのか?そこにはキャリルさんのバスケットボールへの考え方が影響しています。

 

ドリブルは選手が若い時に身につけるべきである。選手は、なぜドリブルが必要なのか。また、いつ、どこで、どのくらい行うのかを認識すべきである。たとえどんなに身長があっても、チーム内でどのような役割を持っていても、また往々にして若い頃にショットやリバウンドのみをコーチに指導されてきた身体の大きな選手でも、ドリブルができなければ良い選手とはいえない。プリンストンの私のチームでは、毎日のウォームアップにドリブル練習を行う。また、選手の利き手と反対の手で、マンツーマンの練習をさせる。私は、素早いドリブルができなければ、ショットを決めることは不可能であると教えている。

 

これは「ドリブル」に関する記述ですが、同じように「パス」「シュート」についてもポジション関係なく全ての選手が身に付けるべき基礎としてCarrilさんは位置付けていました。当たり前のことかもしれませんが、ドリブル、パス、シュート、パスといった基礎をどれだけ大切にできるか、勝つために重要な要素です。

 

Carrilさんはパスについても「相手がシュートを打ちやすい胸元に正確にパスを出すことが大事だ」といったことを記していて、当たり前のことを徹底的に丁寧に指導していたことが伝わってきます。Princeotn Offenseというとセットプレーなど「動き方」に注目しがちですが、Carrilさんが創り上げたバスケットボールはもっともっと深いのです。

 

また、スリーポイントの試投数に関しても、当時のプリンストン大学は「時代を先取っていた」と言えます。

 

以下のデータは1996年当時のシュート試投数に関するものです。

Princeton Uni. 48.2%

NCAA 29.2%

NBA 20.0%

 

当時のNCAAとNBAと比較しても、明らかにプリンストン大学はスリーポイントを重視していたことが分かります。今となっては「期待値の高いシュートを打つ」というのが当たり前になっているので、スリーポイントかゴール下(もしくはFT)を打つバスケが主流ですが、当時はとても珍しかったことが分かります。プリンストン大学の影響で今のスリーポイントを多用するオフェンスが広がったのかは分かりません(Stephen CurryやHouston Rocketsの影響も大きいのは間違いないです)、少なくとも「時代を先取っていた」というのは事実だと言えます。

 

また、Pirnceton Offenseの中には様々なアクションが含まれています。

UCLAカット、Flex actionといった長年使われているアクションだけではなく、現代バスケットボールでよく見られる「Maccabi action(45cut+corner lift)」というのもあります。

※ちなみに、Maccabi actionを連続的に起こしていくモーションオフェンス「Euro Ball screen Motion」「Maccabi Motion」「Pick&Roll Continuity」といったオフェンスも、元々はプリンストン大学卒&Carrilさんの最後の教え子の一人であるDavid Bllatさんが「Maccabi Tel Aviv」というイスラエルのチームで行っていたことから名づけられたもので、元を辿ればPrinceton Offenseです。

※Maccabi actionの詳細は後ほど

 

当時のPrinceton Offenseは以下のようなもので、一つのポゼッションの中にいくつものアクションが含まれていて、何回もバックカットをしています。これだけ連続的にスクリーンプレーとバックカットを起こされたらディフェンスは必ずコミュニケーションミスが生まれます。そうやって、身体能力ではなく「賢さ」と「チームプレー」でチャンスを創っていくのがPrinceton Offenseの特徴です。

 

これは伝説の試合の1ポゼッション目。連続的にスクリーンプレーとバックカットが行われ、コート上の5人が連動して動いているのが分かると思います。この1ポゼッションを見るだけでもプリンストン大学がどれだけ練習を積み重ねてきているかが分かります。何度見ても凄いです。

 

※引用:Princeton vs. UCLA: 1996 First Round | FULL GAME

 

バスケットボールは先人の経験や想いを引き継ぎながら常に進化し続けているため、現代バスケットボールに影響を与えたのがPete Carrilさんだけではないことは言うまでもありませんが、データを元に現代の主流を見ていくと、Princeton OffenseとPete Carrilさんがバスケットボールに与えた影響は絶大だったことが分かっていただけたのではないかなと思います。実際に、今でも世界中でPrinceton Offenseは活用されています。「プリンストン大学がやっていたオフェンス」が「Princeton Offense」なので、厳密には本当の意味でPrinceton Offenseができるのは当時のプリンストン大学の選手たちにしかいませんが、Prineton Offenseのコンセプトや動き方を取り入れているチームは多くあります。

 

僕はこのPete Carrilさんが残してくれたPrinceton Offneseという素晴らしいモデル、そして「The smart take from the strong」という信念を引き継ぎ、バスケットボールを更に面白いものに進化発展させていきたいと思っています。

なぜそれだけPrinceton Offenseにこだわるのか?というと、Pete Carrilさんが、Princeton Offenseが僕自身の人生を変えてくれたからです。そして、Princeton Offenseを通してバスケットボールの楽しさと素晴らしさをもっと多くの人に伝えていきたいから。

 

 

 

Princeton Offenseの全体像

それでは、ここから具体的なプレーについて解説していきます。

Princeton Offenseは「大学バスケットボール界 最大の謎」と呼ばれていたほど解明することが難しいオフェンスとされており、イメージとして「複雑」に思えるものですが、実際にプレーしていると「シンプル」だということが分かります。これはプレーしたことがある人じゃないと分からないと思うのですが、やっていることは複雑ではありません。目の前のディフェンスと「表か裏」の駆け引きをして、味方の位置を見て合わせていくだけです。Princeton Offenseの真髄にあるコンセプトを理解した上で、基本のプレー(動き方)を知ると、点と点が繋がって全体が見えるようになります。全体像の分かりやすいところから一つひとつ丁寧に解説していきます。

 

 

バックカット

まず、Princeton Offenseの一番の特徴は何といっても「バックカット」です。「プリンストンと言えばバックカット」「バックカットと言えばプリンストン」と言えるくらい、プリンストンの代名詞です。

 

バックカットには様々なメリットがあります。

 

・誰でもできる

・ペイントアタックができる

・プレッシャーをリリースできる

・ボールを持っていないためミスになりにくい

・ディフェンスを収縮できるためアウトサイドのフリーを創れる

 

もちろん、メリットがあればデメリットがあります。

・試合で成功させるまでに時間がかかる

・パスが難しい、タイミングを合わせるのが難しい

 

でも、ほとんどのバスケットボールマンはバックカットを”ちゃんと”指導されたことがないし、チームとして深めたこと、実践したことがないと思います。当然、僕もそうでした。

僕は11歳でバスケットボールを始めましたが、バックカットという技術を思い出したのは24歳の時です。中学校の時に基礎としては終わっていましたが、プレー中にバックカットを選択肢として考えたことはほぼなかったです。1対1ばかり考えていた高校時代は”皆無”でした。その後、大学できちんとしたモーションオフェンスを取り入れた時にバックカットの選択肢は入れていましたが、その頃も「ディナイに対する対応」くらいにしかとらえていなくて、全体のバスケットボールの1%以下しかバックカットについては考えていませんでした。

 

2013年、大学のバスケットボールの試合で対戦相手がPrinceton Offenseをしていた(当時はそんなことも分かりませんでした)のですが、その時、ベンチから「相手のバックカットが凄い」というのは印象に残っていました。

チームとしても「バックカットを警戒しよう」という話は出ていたので、この頃、バックカットを思い出したとも言えますが、試合でやられて印象に残っていたものの、時間が経つにつれてバックカットはどんどん頭の中から無くなっていきました。2017年5月に、ようやく、きちんと「Princeton Offense」という存在を知り、バックカットを深めていくことになります。

 

僕にバックカットの面白さを伝えてくれた上記の大学生チームを指導していた学生コーチ兼選手の仲間が解説してくれたのが以下の動画です。この時、僕は初めてPrinceton Offenseというものを知り、情報発信の深さと広さ、バスケ人生が変わることになります。この動画は今から6年半前のものですが、今でも学びになる重要な基礎が詰まっているので、まだ見たことがなければ是非一度ご覧ください。様々な学びがあるはずです。

 

さて、そんなバックカットを成功させるためには様々な要素が必要になります。

・ペイント内を空ける(スペーシング)

・味方とタイミングを合わせる

・パス技術を高める

など

 

こういった要素がすべてきちんと揃うことで初めて1本のバックカットが成功します。

 

やっていることはとてもシンプルで誰でもできることですが、それを「武器」にするためには基礎からきちんと反復練習をしていく必要があります。

 

プリンストンオフェンスは、バックカットがいつでも狙えるように、基本的に「ペイント内を空ける」というのをコンセプトにしています。そのため、プリンストン大学もセンターを外に出して、中を空けていたと考えられます。Princeton Offenseのコンセプトとしては、ペイントを空けて、まずバックカットを狙うこと。シンプルですが、Princeton Offenseの中心にはバックカットが常にあります。

 

 

ダブルパンチ

バックカットと合わせて重要なコンセプトが「ダブルパンチ」です。

ダブルパンチとは、読んで字のごとく、二つのパンチ(攻撃)を同時に起こすことです。つまり、バックカットだけで終わらせず、「バックカットをしたら同時にもう一つの攻撃を創る」ということ。これが全ての場面に出てきます。

 

具体的には以下のようなことです。

バックカットと同時に、もう一人が合わせる。

 

これが「ダブルパンチ」です。

 

ダブルパンチの考え方自体はバスケットボールの基礎として「インサイドアウト」みたいな言葉で表現されることがあることで、人によっては「当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、「バックカット」を軸に考えていくと「ダブルパンチ」という言葉を使うことで、よりプレーの質が高まっていきます。

 

どういう事かというと、バックカットというのは実際の試合ではそんなに沢山は成功しません。フリーになったとしてもパスが来ない時の方が多いです。でも、きちんとしたバックカットをすると必ずディフェンスを崩すことができるため、チームとしてのズレを生むことができます。その際「ダブルパンチ」という概念があれば、そのズレからチャンスを創ることができます。でも、「ダブルパンチ」という概念がなかったら「バックカットに入らなかった」でプレーが止まってしまいます。プレーを止めず、次のチャンスを探していくためにも「ダブルパンチ」という言葉と概念はとても効果的です。

 

ダブルパンチの場面は様々なものがありますが、Princeton Offenseの場合は「スクリーンプレー」の中でダブルパンチが起きることが多いです。

 

一般的に、スクリーンをセットされたら「スクリーンを使う」というのを選ぶものですが、Princeton Offenseの場合は「スクリーンを使わない(reject)」を第一オプションにしています。これがPrinceton Offenseの最も特徴的なプレーの一つであり、とても効果的なアクションです。僕はこのダブルパンチの動き、スクリーンを使わずにバックカットをするプレーを「プリンストンカット」と呼んでいます。

 

先ほど紹介したプリンストン大学vs.UCLA大学の1ポゼッション目を「ダブルパンチ」の視点で見てみると、何回も行われていることが見えると思います。「視点」が変わると受け取れる情報量が変わるはずです。

※引用:Princeton vs. UCLA: 1996 First Round | FULL GAME

 

フェーズを繋げる

そして、もう一つ、Princeton Offenseの大きな特徴が「フェーズを繋ぐ」というコンセプトです。

フェーズ(phase)とは「場面」と訳される英語で、具体的には「自分たちのオフェンスパターン」という風に認識していただけたらと思います。つまり、「フェーズを繋げる」とは「自分たちのオフェンスパターンを繋げる」という事です。

 

どういうことか、具体的な例と合わせて紹介していきます。

一般的に「セット」「モーション」と呼ばれるプレーがありますが、それと比べて「プリンストン」というのはちょっと違う特徴があります。

 

「セット」のイメージは「一直線」です。

つまり、最終ゴールの「E」というシュートを打たせるために「A」「B」「C」「D」というプレーがあります。それぞれ「ボールを受ける」「カットする」「スクリーンをかける」など、「E」というシュートを作るためのアクションになります。セットの良さは打たせたい選手にシュートを打たせられること、逆にデメリットはどこかがディナイされたりスイッチされて止められた時に流れが止まりやすいことです。もちろん、その場面場面での駆け引きがきちんと出来れば問題ないのですが、3つのコンセプトを比較した時、セットはそういったデメリットがあります。イメージとしては「A」から「E」に向かって水が流れていたとした時、どこかが堰き止められたら(ディナイされたら)水の流れが止まってしまう、という感じです。

 

「モーション」のイメージは「分岐」です。

ディフェンスの状況を見て、エントリーの位置やパスの方向に合わせて、次のプレーが決まっていくというイメージ。「B」の方向に進もうとしたけど、例えばディナイされた止められたら「C」の選択肢を選ぶ、など。モーションの捉え方も人それぞれですが、3つのコンセプトを比較すると分岐というイメージになります。モーションの良さは流れが滞りなくできること、デメリットはセットと同じく、ディナイされた時に流れが止まりやすいこと。また、セットのように「どの選手に打たせるか」という終着点が決まっていない場合(プレーメイクできる選手がコート上にいない場合)、確率の低いシュートが増えたり、貰わせたい選手(クリエイターやエース)にボールが渡らないことがあります。もちろん、これらはコンセプト次第で改善出来ることなのですが、プリンストンと比較するとそういう特徴があります。

 

「プリンストン」のイメージは「円環」です。

円環とは、ぐるぐると回りながら動いている様子。「何を回っているのか?」というと「フェーズ(場面)」です。「フェーズ」というのは「自分たちのオフェンスパターン」と言いましたが、Princeton Offenseである基本的なオフェンスパターン(スペーシング)は以下のようなものです。※基本的にプレーは3人で創れる(3対3)のですが、5対5においては5人のスペーシングが重要になります。

 

これらの「フェーズ」と呼んでいるスペーシング(自分たちのオフェンスパターン)を相手に合わせて繋げていく、というのがプリンストンらしさです。

 

実際は、そこに「スペーシング」「タイミング」「サークルムーブ」といった合わせのアクションが加わるので、円環の図を具体化すると以下のような図になります。

これらがグルグルと回り続けているのがプリンストン。

 

言葉にすると、このような形になります。

 

「プリンストン」が「セット」や「モーション」と違う点は、

・ディナイされたところから崩していける

・誰がどんな動きをしても形を創っていける

といった点です。

 

ディナイされたら流れが止まる「セット」、ディナイされたら別のオプションを選ぶ「モーション」、それと比較すると「プリンストン」は「ディナイされたところからチャンスを創る」というオフェンスになります。もちろん、セットもモーションも悪いわけではなく、どちらも必要であるし、プリンストンの中にもセットやモーションの考え方は必要になります。厳密には分けることができないことですが、あえて分かりやすく分類するとこういった特徴があります。

 

つまり、プリンストンというのは「ディナイされた」ということをネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに、積極的に考えていけるオフェンスです。「ディナイ→バックカット(1対1が創れる)」という事になるからです。ディナイされたところからプリンストンは始まる、とも言えそうなオフェンスで、そういった面からもディフェンスのプレッシャーが強い場合が多い「強者」と対戦する際にPrinceton Offenseはチャンスを創りやすいと言えます。それが「賢者は強者に優る」というPete Carrilさんの信念にも通じます。

 

先ほどから紹介している以下のシーンも、いくつものフェーズが繋がっていることが分かります。

※引用:Princeton vs. UCLA: 1996 First Round | FULL GAME

 

これは外から見たら「何をしているか分からない」「複雑すぎる」「育成年代には向いていない」と思われても仕方ないことです。でも、実際はやっていることはとてもシンプルで、その一つひとつのアクションは育成年代でも使えるものであり、プロレベルでも使われているもの。そして複雑に見えるオフェンスの中にあるのは、誰でもできる「バックカット」です。「バックカット」は誰でもできるプレーで、初心者が学ぶ技術ですが、スカウティングが当たり前になっている今の時代、そして全国大会やプロ、世界大会とレベルが上がれば上がるほど必要になってくる技術だと僕は考えています。

 

初心者からプロまで活用できて、誰でも1対0を作れて、誰でもチームに貢献できて、強者に勝つための武器になるプレー。だけど、ほとんどの選手と指導者は深めたことがないプレー。それがバックカットです。

 

このバックカットを、誰もやらないくらい深め続けた先にどんな面白いバスケットボールが生まれるんだろう?

 

それはきっと、初心者からプロまで通じるバスケットボールのモデルになり、これからいくら情報量が増えたとしても、いくら時代が変わったとしても、変わらない本質が詰まったものになるはず。「Pick&Roll」が必要ないチームはあります。でも「ドライブ」が必要ないチームはいないし「シュート」が必要なチームもいない。それと同じように、必ず試合中で起きる「バックカット」という基礎は全チームに通じるものであり、全チームをより進化させてくれるツールだと僕は信じています。

 

そして、バックカットは必ず2人以上の味方が関わります。

一人では出来ません。パスが必要だし、良いスペーシングが必要、味方と息を合わせないと絶対に成功しません。つまり、バックカットとはチームプレーそのものなのです。

 

バックカットを通してバスケットボールの価値観が180°変わった、という人は僕だけではありません。僕が今まで関わってきた学生たちも、Princeton Offenseを共に深めている指導者の皆さんも、バックカット(Princeton Offense)を通してバスケットボールの価値観が変わり、バスケ人生が変わり、人生がより豊かになっています。そんな人を一人でも増やしていきたい、Pete Carrilさんの信念を引き継ぎながらPrinceton Offenseを更に進化発展させたバスケットボールのモデルを創りたい。それが僕の人生の目標であり、志です。

さて、それでは具体的なプレーについての解説です。

 

 

 

バックカットの基礎

まず、Princeton Offenseの中心になる「バックカット」について解説していきます。

先ほども話したように、バックカットは基礎として最初に教わる駆け引きの選択肢の一つですが、ほとんどの選手&指導者はきちんと深めたことがない、指導されたことがないと思います。誰でもできる簡単なプレーですが、強者に優る上でとても大きな武器の一つになるプレーです。

 

Princeton Offenseの中でよく出てくる基礎からパターン別に解説していきます。

 

バックカットの判断基準

基本的に以下のような条件が揃っていたらバックカットのチャンスがあります。

・ディフェンスがマークを外している(目を切っている)

・ディフェンスがインラインにいない(ディナイも同様)

・ゴール下のスペースが空いている

・ボールマンと目が合っている

 

 

バスケットボールにおいて、オフェンスの目的は「得点を取ること」です。

そう考えた時、「リングに向かう」という動きは「まず最初に考えるべきこと(表の選択肢)」と言えるのですが、なぜか、オフボールにおいてはカッティングを教わることがあまりありません。結果的に、多くの選手はバックカットのチャンスがあることにすら氣付けていなくて、ディフェンスがディナイをしたり明らかにオーバーディフェンスをしているのにもかかわらず、「ボールに向かう」という選択をしてしまいます。これはバックカットの指導が足りない、バックカットの経験が足りないから起きる現象です。よく体育の授業など「初心者のバスケットボールはボールに集まりすぎてしまって逆に攻めれない」と言われることがありますが、バックカット(Princeton Offense)の視点から言うと、スクリーンプレーの際やDHOの際にボールに向かうことしか選択肢がない選手を見ると「あ、バックカットのチャンス」って思えます。これは学生はもちろん、プロレベルのバスケを見ていても思うことです。

 

 

バックカットの「成貢」(成功+貢献)

また、バックカットをチームで深めていく(Princeton Offenseを活用していく)上で大事なことが「成功」の考え方をアップデートすることです。

 

具体的には「成功」ではなく「成貢」という概念でバックカットを深めていった方がいいです。これを選手たちも認識した上でプレーするか、指導者の理念として持っておくか(プレーを評価する際に「成貢」の考え方を伝える)はチームによって変わると思いますが、一般的な「成功」という概念をアップデートしていくことが大切になります。

 

「成貢」とは「成功+貢献」の造語です。バックカットは、自分がフリーになる(1対0)「成功」だけではなく、1対0を作ってペイントアタックすることでディフェンスを引き付けることができる(1対2)ので味方を活かす「貢献」も同時に出来ます。「成功」という概念だけで自分がフリーになるかどうか、自分にパスが入るかどうかだけを氣にしていると、本当の意味でバックカットの深みには辿り着けません。バックカットの良さは自分がフリーになるだけではなく、味方のフリーも創ることができるところです。ただリングに向かって走るだけで。そこがバックカットの面白さであり、バックカットを武器にするために必要な考え方です。

 

 

バックカットの効果

駆け引きが上手くなる

これまでPrinceton Offenseを経験してきた選手にインタビューを行ってきました。バックカットに関するストーリーを聞いて、バックカットを通してバスケットボールがどう変化したかを聞いているのですが、、最後は「あなたにとってのバックカットとは?」という質問でインタビューを閉めます。これをしていくと、一人ひとりの中にある「バックカット」が違うことが分かります。でも、Princeton Offenseを経験した人ならどれも共感できるもの。そんな不思議な一体感を感じられます。だから、「このバックカット(から始まるバスケットボール)の面白さを多くの人に伝えていきたい」と自然と思うのでしょう、僕以外の皆さんも。

 

そんなインタビューの中で、こういった言葉がありました。

・バックカットをするようになってからディフェンスが見えるようになった

・バックカットをするようになってからコート全体が見えるようになった

 

実際、これは僕自身も感じます。バックカットを忘れていた頃は「ボール」ばかりを見ていました。良くバスケットボールの基礎として「ディフェンスを見なさい」と言われると思うのですが、これが簡単ではないのです。でも「バックカット」を身に付けると自然とディフェンスが見れるようになります。ディフェンスの立ち位置を氣にしながらプレーできるので判断が良くなります。同時に、ディフェンスを見ることでコート全体が見えるようにもなります。こういった効果はPrinceton Offenseを実践したことがある人なら共感できることだと思います。とても大きな効果です。

 

先手を取れる(プレッシャーリリース)

また、チーム全体で見た時、バックカットを武器にしておくと先手を取れるようになります。

バックカットは面白いもので、一度バックカットを成功させると必ずと言っていいほど相手のベンチから「バックカット!バックカット」という声が出てきます。それくらい印象に残るプレーなのだと思うし、ディフェンスとしてはペイント内でドフリーを作られたくないという心理から警戒するようになるのだと思います。これはどのカテゴリーでも聞く「プリンストンあるある」です。

自分達よりも強いチームに勝とうとした時、まず最初に大事になるのが「プレッシャーリリース」だと思います。どんなに洗練されたオフェンスを練習していたとしても、そもそも相手のプレッシャーをリリースできないと練習してきた形にすら入れません。オフェンスを遂行していくためにはまずプレッシャーをリリースする必要があります。もちろん、ドリブルやピボットできちんとプレッシャーに負けない技術を身に付けることも大事です。バックカットはそれらと同じようなことを「チーム全体」で出来るプレーです。

 

よく質問で「バックカットを警戒されて引いて守られたらどうしたらいいんですか?」ということを聞かれるのですが、その対応はいくらでもあります。シンプルに「スリーポイントを打つ」というのも一つでしょうし、ポストアップして中を攻めるのもあります。また引いて守られていたとしてもバックカットが成功することもあります。むしろ、引いて守られたからといってバックカットを止めてしまったら勿体ないです。相手が警戒していること、嫌がっていることをやり続けることで先手を取り続けられるからです。また、ディナイをされなくなったのであれば、普通のオフェンスの流れ(練習してきた形)に入っていけばいいので楽に攻めることができます。

 

「引いて守られた」のではなく「引いて守らせた」という心理状態も大事です。

 

相手が主体なのではなく、自分たちが常に主体。そんな状態で試合ができれば試合を優位に運びやすくなります。Princeton Offenseをしていると、引いて守られたり、オールスイッチをされたり、ゾーンをされることがあります。これはそれだけバックカットや連続的に起こるスクリーンプレーの対応が大変or面倒という証拠で、その状態を先に創れたら先手を取れる、もしくは互角の状態になれます。「プレッシャーディフェンスに何もできずに完敗した」「練習してきたことが何も出せずに負けた」そんな試合を一つでも減らして、もっとバスケットボールのレベルを上げていきたいし、バスケットボールを楽しめる選手やチームを増やしていきたいと思っています。

 

パス(チームプレー)が好きになる

また、もう一つ大きな効果として「パスが好きになる」というのがあります。実際、僕自身もPrinceton Offenseをするようになってからバスケ人生で初めてパスが好きになりました。もともと「パスは生まれ持ったセンスがある人だけが出来るもの」という偏見があったこともあって、パスについては諦めていました。楽しいと思ったこともなくて、ただただ目の前のディフェンスを1対1で(クロスオーバーで)カッコよく抜くことだけを考えていたバスケットボールマンでした。でも、Princeton Offense、バックカットで大きく変わりました。

バックカットは一人では成功できません。必ずパサーや周りのチームメイトとの合わせが必要です。バックカットが成功すると、なんとも言えない「気持ちよさ」があります。速攻のレイアップならまだしも、5対5において、ゴール下でドフリーを作れる経験というのは殆どの人はしてきていません。しかも、”ディフェンスが頑張れば頑張るほどバックカットが成功する”ともいえることで、真剣勝負の中でこそバックカットが決まるので、それもあって駆け引きの楽しさをより一層感じられるのだと思います。バックカットが成功するとパサーに対して「ナイスパス!」という表現がしたくなります。また、スペースを創ってくれた味方に対しても「ありがとう!」という気持ちになれます。まさしく、バックカットとはチームプレーそのものなのです。

 

Carrilさんは「パス」について、こんな言葉を残しています。

パスは長年にわたり、チームの武器になっている。私がシューターと同様にパッサーが好きなのは、誰にでも決めることができるショットをセットアップできるからだ。チームのすべての選手がパスに関わるのを見ることは気分が良いものである。

オープン選手を察知できるパッサーは、いつ、何処でスクリーンをかけるか、ピックを防ぐか、ディフェンス側に有利となるかを認識できる能力を備えている。言い換えれば視野の広い選手であり、ウィークポイントは何か、ドライブは何処か、そしてコートの何処に誰がいるかを把握できる選手である。彼はその情報に基づいてボールを移動する。彼こそが我々のチームの最大の武器となるのである。ポイントを得るには、ボールを動かさなくてはならない。我々は、ディフェンスを動かすためにパスをし、あらゆるパスが価値を持つ。あるパスはポイントを生み、他は何かのきっかけとなり、そのきっかけはパスによって生じる。パスによる攻撃は次のステップを容易にし、次のパスは更なる攻撃の手助けになる。反対に、まずいパスによって始められたオフェンスは、次のパスを困難にし、最終的にはボールを失わせるのである。

私がパスを好むもう1つの理由は、チームのモラルをはぐくむことができるからである。パスは受け取ることによってお互いの信頼感を築くことができ、ゲームでの不必要な緊張感を解きほぐすことができる。また、パスは各選手がチームの一員としてゲームを組み立てていることを自覚させる効果を持つ。

パスには必要となる2つの根本的な要素がある。1つは、パスをすることを求めて、その価値を認識することである。これは教えることが可能である。次は、オープン選手を読み取る能力である。私にはこれは教えることが不可能であった。すべての偉大な選手はこの能力に非常に長けている。

単にオープン選手を読み取る能力以上のことが関わってくる。偉大なパッサーはオープン選手を読み取った上に、パスを出した後にチームメイトがどのように対応するかをも読み取る。良いパッサーは、パス後にプレーの展開を見ているが、偉大なパッサーは、パス後の結果が明らかにチームに不利な展開になると予測すれば、そのパスを避けるであろう。さらに偉大な選手のパスは、キャッチしやすいボールでもある。このようなことを

パスほど良いチーム作りに貢献できるものは存在せず、逆に決してパスをしないシューターほどチームの雰囲気を壊すものはない。・・・

選手は、パスの正確性や創造性の価値を理解する必要がある。ゴールから18フィート[約5.49m]の距離にいるチームのベストシューターがオープンとなり、チームメイトが彼の膝元にボールをパスしたとすれば、それは良い選手とは言えない。パスの正確性が非常に重要となる。あまりに低いパスは、ミスショットを招く。パスを胸の位置へ送れば、すかさずショットが打てるのである。これはとても重要なことだ。パスされたボールをどこでキャッチするのかを軽視する偉大なコーチもいるが、私は違う。小さな積み重ねこそがチームを勝利へ導くことは言うまでもない。

パスは、近代のバスケットボールゲームが失ってしまった芸術ではないだろうか。私は、ハイスクールのバスケットボールクリニックやキャンプに呼ばれた際には、パスの価値を強調するために熱心に指導する。時に私を失望させるのは、75%ものハイスクールの選手がオープン選手にパスを送らないことである。これは、傲慢さの表れである。身動きができなくなった時だけ、パスをする選手が多すぎる。それはパスではない。

 

マジック・ジョンソンが「パスは2人をハッピーにする」と言いましたが、まさにPrinceton Offenseはそういった感覚を感じさせてくれるオフェンスです。バックカットというプレーはバスケットボールの基礎であり、全ての年代で活用できるプレーなので、このシンプルなプレーを通してバスケットボールの楽しさ、本当のチームプレーの楽しさを知る人が増えていくことを願っています。

 

 

Dribble at

それでは、バックカットの基礎として「Dribble at」を紹介します。

これは2人で出来るバックカットの崩しの基礎で、Princeton Offenseの中では頻繁に出てくるプレーでもあります。

 

Dribble atとは、ディフェンスに向かってドリブルをするプレーのこと。

 

 

Dribble atとDHOの違い

Dribble atとDHOは似たプレーですが、言葉の違いからプレーにも若干の違いがあります。

「Dribble at」はバックカットとセットで使われる言葉で、イメージとしては「バックカットが表」というイメージです。Dribble atの中にも「DHO(ドリブルハンドオフ)」も含まれていて、Dribble atをしたけどユーザーがボールを受けに来るケースもあります。ただ、共通理解としては「Dribble at→backcut」というのをチームとして持っておいた方が整理しやすいです。

 

一方、「DHO」というのは「Dribble Hand Off(ドリブル手渡しパス)」のことで、「手渡しパス」という言葉が含まれているので、どちらかというと「ボールを受けることが表」というイメージです。バックカットは相手がディナイをしてきたら行う、という意味で「裏」という感覚。

2つは殆ど同じプレーであり、厳密には分けることが難しいプレーではありますが、「Dribble at」と言われたら「バックカット」、「DHO」と言われたら「手渡しハンドオフ」という風に整理しておいた方が指導者として選手に伝える時にやりやすいと思います。バックカットをしてほしい時は「Dribble at」と言えばいいですからね。

 

 

パサーのコツ

Dribble atのパサーのコツを紹介します。

バックカットを成功させるためには味方とタイミングを合わせて、正確なパスを出す必要があります。カットよりもパスの方がおそらく最初は難しいと思います。でも、基本を踏まえたら誰でも出せるようになるので整理しながら伝えてみてください。

 

パサーのコツ

・ディフェンスに向かってドリブルをする

・目の前のディフェンスをズラしてパスレーンを作る

・低いバウンドパスを出す(空間へのリードパス)

・ワンハンドでコンパクトに出す

 

ディフェンスに向かってドリブルをする

Dribble atの「at」という助詞は「~に向かう」という意味があります。Dribble atに関しては「”ディフェンスに”向かう」のがポイントです。なぜオフェンスではなくディフェンスなのかというと、ディフェンスに対してドリブルをすると相手の動きを止めたり迷わせたり出来るからです。この「相手に向かう動き」を「正対」と呼びます。ディフェンスに正対することでディフェンスに二択(カットかハンドオフか)を迫ることができるため、ディフェンス中で一瞬の迷いが生まれます。

逆に、ここでオフェンスに向かってDribble atをしてしまうとミスになる確率がかなり高まります。理由としては「パスの距離が長くなるから」「ディフェンスが対応しやすいから(正対されていないため)」です。Dribble atを指導する際、ここを注意してやらなければ試合で使えるものにならないので、きちんと指導する必要があります。

 

目の前のディフェンスをズラしてパスレーンを作る

パスを出すためには、パスレーンを作る必要があります。そのため、ボールマン(パサー)は目の前のディフェンスをずらすために、スピードでドリブルをしたり、ジャブフェイクなどをしてからDribble atを行います。このズレができていない状態でパスを出そうとすると自分のマークマンにスティールされてしまいます。

参考:正対

 

低いバウンドパスを出す(空間へのリードパス)

パスは低いパスを出した方がディフェンスに取られにくくなります。もちろん低すぎてフロアを滑るようなパスだと取りにくいので、そこは練習をしてはいるパスを身に付けていくほかありません。また、人ではなく空間にリードパスを出すことも大事です。速攻のパスと同じで動いている人を見て人に出そうとするとミスになります。あくまで「カッターが走った先」にパスを”落とす”というイメージ。”カッターを走らせる”くらいの感覚でもいいです。

パスの角度が悪い(空間ではなく人に出そうとしている場合)とパスミスになります。トップ→45にバックカットのパスを出す場合は、一つの基準はペイントの線に合わせてパスを出すと取りやすいパスが出せます。

パスの低さについてはCarrilさんの言葉をお読みください。

パッサーにはディフェンダーの臀部を狙ってパスをするように指導している。選手がカットしてバックドアを仕掛けたことにディフェンダーが気付いたとき、リバースピボットを使ってパッサー側を向く場合がある。ディフェンダーの背中がパッサーに向いた状態からターンする場合は、パスコースに手を出すことが容易ではないが、リバースピボットを使えば、パッサーに油断があった場合は、ボールの進路に手を出すことが可能となる場合がある。私が指導するディフェンダーの臀部を狙ってパスを出す方法を使えば、彼がボール側にターンまたはオープンになったときには、ボールは既に選手にわたっているはずである。また、バウンドパスを止めるにはディフェンダーが状態を屈めなければならないため、最終クォーターでそれを用いることが有効となる。しかし、あらゆる距離からバウンドパスを使用すると、2回目のバウンドからボールスピードが極端に落ちてしまう。我々はこの問題を解決するために懸命に練習を重ねた結果、スピードをそれほど落とさずにパスを出せるようになった。

 

実際、低いパスを出すとディフェンスは取りにくく、浮いたパスはスティールされやすいです。

なので、まずは「バウンドパス」を徹底的に指導することをお勧めします。本当はバウンドパス以外のパスも入るのですが、ロブパス(浮かしたパス)を先に教えすぎるとそのパスばかりになってしまうので、ロブパスは「応用」と考えておいた方がいいです。バウンドパスに関してはパスの出し方も取り方も練習しないとなかなか成功しません。これは反復練習をするに限ります。

 

 

 

 

 

オープンディナイでも、バックカットが成功するケースもあります。

※あくまでバックカットは選択肢の一つ

 

 

 

バックカットの判断基準の中に「ディフェンスがマークを外している(目を切っている)」というのがありますが、ディナイの場合はバックカットをされたらボールマンに背を向ける瞬間ができることが多いのでパスが入りやすいのですが、この守り方のように「オープンスタンス(ボールマンから目を切らない守り方)」でも低いバウンドパスならパスが入ります。パサーもカッターも大学で3年間、Princeton Offenseを実践していた選手。カットのタイミングも、パスも、絶妙でお手本ですね。

 

この守り方に対しては「ロブパス(浮かせたパス)」も効果的ではあります。

※先ほども言ったように、あくまで最初はバウンドパスを徹底的に教えた方がいいです

 

 

 

ワンハンドでコンパクトな動作でパスを出す

これもとても大事なことで、反復練習が必要です。バウンドパスを出す際、両手でボールを扱わず(キャッチせず)片手で出せるように練習した方がいいです。その理由はCarrilさんが言葉にしてくれています。

 

バックドアプレーを行うときには、ドリブルからそのままバウンドパスを送れるように指導している。なぜなら、ボールを1度ピックアップすれば、ディフェンダーはその動きからパスを予測してパスコースを手に出してくるが、そうでなければ、彼はドリブルを続けるのかパスをするのかの判断がつかないからである。ドリブルからのパスは、ほんのわずかなプッシュ動作で行えるため、ワインドアップする必要がない。

バックカットへのパスは、実際の試合中は成功することは多くありません。1試合の中で3回バックカットが入れば多い方だと捉えておいた方がミスも減るのでいいです。実際、あの伝説の試合でプリンストン大学は50回近くのバックカットを行っていますが、パスが入ってレイアップに繋がったのは”たった2本”です。でも、その2本がとても効果的かつ印象的で、最後の最後の「THE PLAY」もバックカットでのフィニッシュでした。あのバックカットを成功させるまでに何回も何回もバックカットを行っているからこそ、ディフェンスは対応が遅れたのだと思うし、プリンストン大学としても最後のパスをきちんと通せたのだと思います。

バックカットへのパスをワンハンドで出す習慣を身に付けておけば、パスが出せない時にドリブルを継続することができます。そうするとミスが減るし、次のプレーに繋げていくことができるので、とても大事です。

 

一例として、以下のようなプレーが生まれます。

 

dribble at→post up

バックカットをした後、基本的には逆サイドに行って広がるのが流れを作るためには良いです。ハードカットを習慣にするためにも、まずはカットしてパスが入らなければ逆サイドへ、というのをやった方がいいのですが、だんだん慣れてきたらorポストアップができる選手がいれば「バックカットの後にポストアップ」を狙うとプレーの幅が広がります。バックカットを守ったと思ってディフェンスは一瞬氣が緩むものなので、そのタイミングでポストアップをすると簡単にポストでボールを受けられます。Dribble atへのパスをワンハンドで出す習慣がついていると、バックカットにパスが入らない場合もボールをキャッチせずにドリブルを継続できるので、こういった次のプレーに繋げていくことができます。

 

 

 

Dribble atからの駆け引きは多岐に渡っていて、全てを解説することはできませんが、のちの紹介する「2人での崩し」のところでプレー動画を紹介します。

バックカットを成功させるためのコツはもっと細かくありますが、基本は上記のようなことになります。

より詳しい解説は今後の配信、もしくは解説動画や直接指導で。

 

 

カッターのコツ

続いて「カッターのコツ」についてです。

バックカットは「ゴールに向かって走る」というプレーなので、本当に誰でもできます。初心者でも小学生でもバックカットをすること自体はできます。でも、それを「成功」させるには練習が必要です。パスがまず難しいのですが、きちんとパスを出せるようになったら、あとはカッターがタイミングを合わせるだけです。その際、ディフェンスを騙すことも大切になるので、そのことについても解説していきます。

 

カッターのコツ

・ディフェンスを見る

・ディフェンスを引き出す

・パサーがパスを出せるタイミングでカットする

・全力でカットする(ハードカット)

 

ディフェンスを見る

オフボールの基本は「ディフェンスを見ること」です。オフボールの動きが上手くない場合、ボールだけを見てしまうもの。バックカットを成功させようとしたら自然とディフェンスに目が行くようになります。ただ、この時「ディフェンスだけを見る」と反応が遅れてしまいます。「コート全体を見ながらディフェンスを視野に入れる」という見方の方が反応スピードが上がりますし、良い判断ができるようになります。この全体を見る目の使い方を「正眼」と呼びます。

 

ディフェンスを引き出す

バックカットを成功させるためには、ディフェンスをボール側に引き出す必要があります。ただカットするだけでは相手に対応されます。厳密に言えば、「相手の重心が上がった瞬間にカット(ジャンプしている瞬間にカットされたら人間の構造上、対応が不可能)」というイメージだと成功しやすいです。そのために、まずは「ゼロ(ニュートラル)」を作って、相手に自分の動きを察知させないようにする必要があります。

この時、「プレジャンプ」をすると重心を落として落ち着くことができ、きちんと止まってゼロを作れます。また、「チェック」の動きをしてディフェンスを外側に引き出すとより効果的で、「スキップ」もかなり使えます。

 

 

パサーがパスを出せるタイミングでカットする

ディフェンスに合わせて(ディフェンスからズレができるタイミングで)カットする事と合わせて大事になるのが「味方に合わせる」という事です。ここではパサーがパスを出せるタイミングでカットを始める必要があり、ボールが手の中にある時にカットできるようにします。目安としては、Dribble atをしてドリブルがフロアについたタイミングで、プレジャンプやチェックの動きをすると、ちょうどいいタイミングでカットできます。

 

全力でカットする(ハードカット)

最後にとても大事なこと。バックカットは(ほぼ例外なく)全力でカットする習慣を身に付けるべきです。なぜなら、全力でカットしないとディフェンスに対して圧を与えることができないから。また、練習の合わせの2対0をやる時、選手はどうしてもディフェンスがいないので楽をしてサボってしまうことがあります。スピードを出さずに練習してしまうのです。これは良くない習慣で試合で成功しなくなってしまうので、練習中から「ハードカット(全力でカット)」というのを合言葉にしてバックカットは指導していった方がいいです。

 

 

ダブルパンチ

次に、Dribble atと同じくらいPrinceton Offenseの中で多用される「ダブルパンチ」というバックカットの使い方について。

始めの方でダブルパンチについては簡単に説明しましたが、ここでは「バックカット」に焦点を当てて、具体的なプレーと合わせて解説していきます。これはとても使えるアクションで、どのオフェンスでも組み入れることができます。NBAでもウォリアーズやキングスが今でも多用しているアクションで、Princeton Offenseの醍醐味はここにあると個人的には感じています。

 

基本アクション

ダブルパンチとは前述のとおり、二つの攻撃(バックカット+ポップ)を同時に起こすプレーのことです。

ボールマン+オフボールマン2人で行うプレーで、普通のスクリーンプレーとも捉えられるのですが、Princeton Offenseの場合は「バックカット」が表の選択肢としてあるので、一般的なスクリーンプレーとは違う深さがあります。

以下の画像でいえば、一般的にはスクリーンをかけられたOF2がOF3のスクリーンを使ってウィングにボールを受けに行きますが、Princeton Offenseの場合、ここでバックカット(スクリーンのreject)をまず狙います。これがとても効果的です。

 

先ほどから何度も載せているプリンストン大学vs.UCLA大学の1ポゼッション目にも、このアクションが登場します。

※引用:Princeton vs. UCLA: 1996 First Round | FULL GAME

 

「止まる」を身に付ける

このスクリーンプレーの際にプリンストンカット(バックカット)を選択できるようになると「止まる」ということができるようになります。

スクリーンプレーを行う際、最も重要な基礎の一つが「スクリーンがセットされるまで待つ」という事。これが出来る選手がとても少なく、スクリーンがセットされる前に動き出してしまってディフェンスに守られることがよくあります。スクリーンがかからず「エアースクリーン」と呼ばれるスクリーンになります、ディフェンスではなく空間にスクリーンをかけているような状況です。ユーザーがきちんと止まってから動き出すことは、瞬発力や体格で優る相手から優位性を作るためにとても重要な基礎になります。

 

駆け引き①「プリンストンカット(reject)」

このスクリーンを使わずにバックカットを選択するカットを、個人的に「プリンストンカット」と呼んでいます。それくらい、この場面でのバックカットはプリンストン大学特有のものだからです。スクリーンをセットした瞬間、バックカットをして、同時にスクリナーが開く。このリズムでバックカットが起きていくプレーを見たら「あ、Princeton Offenseやってるな、このチーム」と分かるくらいPrinceton Offenseの代名詞とも言えます。

なぜ、このプリンストンカットが効果的なのか。それは以下の理由が挙げられます。

・この場面でバックカットを経験した選手がほとんどいないから

 

こういったスクリーンを使う場面で、スクリーンを使わない(reject)を選択してきた選手は殆どいないはずです。つまり、オフェンスとしてそういう経験をしてきていないという事は、チーム内の紅白戦でも守った経験があまりなく、このプリンストンカット(ダブルパンチ)の守り方が分からない場合が多いです。だから、コミュニケーションミスが起きたりして、どちらかがフリーになりやすいです。

 

また、

・同時に動く

という事もポイントです。

 

同時に集まって同時に広がることでディフェンスはコミュニケーションミスが起こります。リングに対するアタック(バックカット)が起きると本能的に「危ない」とディフェンスは感じてバックカットに一瞬でも氣を取られます。その瞬間に広がるとズレが生まれます。

 

これを単発ではなく、連続的に起こしていくのがPrinceton Offenseです。

 

 

 

 

このカットはとても効果的で、バックカットの有効性を示しているプレーと言えます。

また、このプレーを最初に見せることで、ディフェンスの頭の中に「バックカット」が印象付けられるので、次からスクリーンプレーをする際に先手を取りやすくなります。このカットを身に付けるには結構時間がかかりますが、Princeton Offenseを取り入れていく上でとても重要なプレーになります。

 

 駆け引き②「ストレートカット」

まず始めにプリンストンカットを狙って「バックカット」を相手に見せます。そうすると相手はバックカットを警戒して引いて守ってきたりスイッチしてきたりします。そういう状況が創れたら「先手を取れている」と言える状況で駆け引きを優位に進めていくことができます。バックカットをまず見せたら、ディフェンスはバックカットのラインを守ろうとしてきます。そうやって守られたら、スクリーンを使ってボールを受けに行く一般的なスクリーンの使い方を選択していくと良いです。

参考:正対

 

 

 

 

 

駆け引き③フレアーカット

次に、ボールから離れるフレアーカットについて。これはディフェンスがスクリーンの下を通る守り方(スライドスルー)をしてきた時の対応です。注意点がありますが、まずは映像をご覧ください。

※ただ、これを成功させるためにはパスのタイミングを合わせる、スクリーンの位置や角度を正確にするなどかなり練習が必要です

 

 

 

フレアーカットは、クイックでスリーが打てる選手であれば効果的です。ただし難しさもあります。

動きとしては

①スクリーンがセットされるまで待つ

②まずはストレートカットを狙う

③DFがスライドしているから途中でストレートカットをキャンセルしてスクリナーの背中で止まる

になります。

 

最初からフレアーカットを狙おうとするとDFに先読みされやすいです。

また、このフレアーカットの場合はパスがちょっとでも遅れるとディフェンスに対応されてスティールされてしまいます。シュートを打つ時のフットワークも無駄足を踏まずに打つには練習が必要なので、フレアーカットからのシュートはストレートカットよりも難易度が高いと感じています。ディフェンスがよっぽど引いて守っている場合や、ユーザーがシューターであれば効果的です。あくまで、まずはプリンストンカット(バックカット)とリジェクトを身に付けると良いと思います。

 

駆け引き④Give&Go

続いて、パスを入れた選手(スクリナーになる選手)がパスを受けるパターンについて。

スクリナーのカットに関しては、先ほど言及した「バックカットの判断基準」の中にある

・ディフェンスがインラインにいない

というのが適切な判断をする上で重要になります。

図で示すと以下のような状況です。

パスを入れた瞬間にインラインが空いていればスクリーンに行く必要がなく、カッティングをしてパスを受けます。この時のパスはかなり難しく、普通のタイミングでパスを出すとミスになることが多いため、タイミングを少し遅らせてパスを入れると成功しやすいです。

 

 

 

 

駆け引き⑤カールカット

次にカールカットを紹介します。これはディフェンスがchase(後ろから追いかける形でスリーポイントを打たせない守り方)で守ってきている時などに有効なプレーです。

 

 

カールカットをした際もスクリナーが同時に開くことで「ダブルパンチ」が生まれます。

スクリナーの選手にシュートを打たせたい場合もカールカットは有効です。ユーザーがカールカットをすることでディフェンスを2人引きつけることができるため。

 

 

 

カールカットも何かしらのチームで共通理解を作るといいです。

例えば「ユーザーがゆっくり動き出したらカールカット」などです。カールカットを成功させるために”あえて相手に守らせる”というのも使えます。ゆっくり動きだして”あえてブラッシングをしない”という選択をとって、スクリーンと自分との間にスペースを空けてファイトオーバーさせてカールカット、といった相手を引き出す駆け引きも効果的です。

 

駆け引き⑥フロントカット

次に、相手がバックカットを警戒してきている時に効果的なフロントカットを紹介します。これはダブルパンチの判断の中でも比較的難易度が高いですが、ディフェンスをきちんと見てフロントカットを選択できるようになるとチャンスを作れるようになります。

判断としては「ディフェンスがインライン上にいない時」になります。また、ディフェンスが氣を緩めている時(楽をして守っている時)もフロントカットは効果的です。バックカットを警戒しているディフェンスは後ろ側に意識が向いている状態なので、自分の前側をカットされるとそのままシールされたりレイアップされる危険性があるのでフロントカットに弱いです。

バックカットもそうなのですが、特にフロントカットは「ディフェンスに圧を与える」という意味でもとても重要なカットです。このフロントカットの怖さを相手に見せることで、相手を”守らせて”、ダブルパンチを優位に進めることができます。

青い線:インライン

 

実際のプレー動画をご覧ください。

このフロントカットのタイミングは、スクリーンがセットされる前にカットを始める(スクリーンを使う基本のタイミングよりも少し早いタイミング)とディフェンスの意表をつけます。相手がスクリーンを守ろうとする一瞬前を攻めるイメージです。

 

 

 

 

これらがダブルパンチの基礎です。

ダブルパンチとは「ただのスクリーンプレー」と思われるかもしれません。確かに、これはスクリーンプレーの駆け引きなのですが、通常のスクリーンプレーには「バックカット」という選択肢がない場合が多く、「プリンストンカット」のようにユーザーがバックカットを第一に選択するケースはPrinceton Offenseの大きな特徴です。

 

ここではローポストにパスが入ってからのダブルパンチを主に解説しましたが、ハイポストにパスが入った後のダブルパンチも駆け引きは基本的に同じです。これらはPrinceton Offenseを採用していなかったとしても活用できるアクションで「3人の崩し(3対3で行う崩しのパターン)」です。様々な場面に活用できるので是非取り入れてみてください。

※ダブルパンチの更に細かい駆け引きや指導のポイントに関しては後述します

 

 

 

Pete Carrilさんのオフェンスコンセプト

それでは、具体的にPrinceton Offenseのオフェンスの構築についてお話していきます。

ここは「動きの形」よりも重要なところなので、是非じっくりお読みください。

 

Princeton Offenseとは「動きの形」ではない

まず始めにお伝えしておきたいことは「Princeton Offenseとはプリンストン大学の選手とPete Carrilさんが創ったオフェンスである」という事。これがPrinceton Offenseを導入する上で最も重要な事なのですが、多くの人が見落としている所です。

 

Princeton Offenseとは「動きの形」のことではなく「プリンストン大学の取り組みそのもの」であるという事。つまり、「Princeton Offenseをやろう」とすることは本来はおかしいことであって不可能なことなのです。Princeton Offenseができるのはプリンストン大学の選手とPete Carrilさんだけだからです。プリンストン大学やっていたことをそのままなぞる形で真似しようとしても、時代も、選手も、コーチも、環境も違うので絶対に出来ません。

僕らが目指すべきことは「Princeton Offenseの中にある本質を受け取り、Princeton Offenseを活用して、独自のオフェンスを創り上げること」です。その独自のオフェンスを創り上げるためのバスケットボールのモデルが「大和籠球」です。少し伝わりにくいことがあるかもしれませんが、このページをすべてご覧いただけたら理解できるように書き進めていきます。

Princeton Offenseを理解して、Princeton Offense”のような”オフェンスをして、「賢者は強者に優る」を目指していく上で大切な事は、「Princeton Offenseのコンセプト」を学ぶことです。つまり、それは「Pete Carrilさんのオフェンスに対する考え方を学ぶ」という事です。

 

Pete Carrilさんの考え(『賢者は強者に優る』より)

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書籍『賢者は強者に優る』の中には、Pete Carrilさんのバスケットボール観が綴られています。この書籍なしにPrinceton Offenseを語ることはできませんし、Princeton Offenseを導入して活用することはできません。

 

「文字」というのは、感情や文脈が読み取れないため、読み手によって解釈が変わってしまうものです。著者の本当に伝えたいことを100%正しく受け取るということは難しいからこそ、何度も何度も読み返し、実践して、学びを深めていく他ありません。

ここではオフェンスを構築する上で大切だとPete Carrilさんが述べている文章を引用させていただきます。

 

「良いショットを打て」p100

オフェンスの主たる目的は、ボールを持ったときに毎回成功させることが可能なショットを打つことである。パスの良し悪しがショットの成功率を決定づける。質の悪いパスは、多くのプレーに影響を与えることになる。 私のオフェンス戦術は、1つのプレーに対して、常に別の選択肢を用意しておくことで、そのプレーが阻止されたときに別のプレーで戦うというものである。プレーの自由度を高めることで、あらゆる状況に対応できるようにしている。相手のディフェンスに対抗できる多彩なプレーができれば、相手のプレーを利用することも可能となる。オフェンスという言葉は、フリーランスとも呼ばれることもあるが、状況に応じた即興的なプレーが要求されるため、それを教えることは簡単なことではない。単純なパターンオフェンスは、基本的な戦術を学べば身につけることができる。しかし、ねずみさえ迷路をくぐりぬけることを学習するのである。そのようなオフェンスに依存するチームが、相手の強固なディフェンスによって、それを阻止されるのは時間の問題である。

※参考:「パスの精度がシュートの精度になる」

 

ここで言われていることは、まさに、Princeton Offenseの真髄です。

傍から見たらPrinceton Offenseというのは「複雑なシステム」に見えます。実際、目まぐるしく連続的にスクリーンプレーとカットプレーが行われるので「物凄く複雑なオフェンスで難しそう」と思えます。でも、Pete Carrilさんと選手からしたら「相手の守り方に対応する準備をした結果そうなった」という感覚なのだと思います。

「私のオフェンス戦術は、1つのプレーに対して、常に別の選択肢を用意しておくことで、そのプレーが阻止されたときに別のプレーで戦うというものである」こう、Carrilさんは言っています。これはオフェンスの基礎だと思いますが、Princeton Offenseほど徹底されたものはないと思うし、その中心に「バックカット」があるので、他のオフェンスとは違う特徴があります。

 

続いて、オフボールのプレーについて。

 

「ボールなしのプレー」p103

 我々はセットプレーを行うが、1つのプレーから生まれるすべての可能性を教え込むようにしている。ここでの基本的なポイントは、自分の目の前にいるチームメイトを観察することである。彼のプレーが、自分の役割を教えてくれるのである。彼は自分がオープンになるために、または他の選手のためのフリースペースを得るためにカットするかもしれない。あるいは、他の選手のヘルプのためにスクリーンをセットするかもしれない。このような3つのプレーはボールを保持しない選手が行えることである。ボールを持っていない4人の選手は、自分の役割を理解しなければならない。常に自分をマークするディフェンダーを動かし、かわし、相手の頭を動かすようなプレーが必要となる。チームメイトがカットスルーする代わりにスクリーンをセットすれば、スクリーンから外れる動きが求められる。自分のディフェンダーとの距離が狭い場合にはバックドアを仕掛けるチャンスが生まれる。目の前のチームメイトを観察することで自らの役割を知ることができるのである。このことは、あらゆるオフェンスに当てはまる基本原理である。

 

ここで言われていることも、とても重要です。

 

「目の前の味方と相手を見ることで次のプレーを選択する」これがバスケットボールの駆け引きの本質ですが、Princeton Offenseは特に「味方の立ち位置を見れば次に何をすればいいかが分かる」という特徴があります。セットプレーやモーションオフェンスは流れがあり、その流れの中でプレーを選択していきますが、どこかのポジションがディナイされてしまうと流れが止まってしまうことが良くあります。

 

それに比べて、Princeton Offenseというのは、どこかの流れをディナイで止められたら、そこでバックカットを選択して、まず「1対0のチャンス」を作ります。そして、そこで出来たズレからアウトナンバーを攻めることもできますし、バックカットにパスが入らなかったとしても、すぐに次の形に繋げていくことができます。

 

実際にプレーした学生(大学生)に「プリンストンってどういうオフェンス?」と聞いたことがありますが、その学生は「究極のフリーオフェンス。味方がどんな動きをしたとしても形を創り出すことができる」と答えてくれました。実際にプレーする感覚はまさしくその通りです。多くのオフェンスは「ディナイされたら流れが止まる」「本来レシーブするところでバックカットを選択したら形が崩れて、仕方なく、Pick&Rollや1on1をするしかなくなる」といったことがありますが、Princeton Offenseの場合は形が崩れたとしても味方の位置を見れば次の形(フェーズ)を作ることができます。

 

バックカットの選択に関しても「目の前のディフェンスを見れば自分が何をすべきか分かる」というシンプルな判断基準があるため、迷いなくプレーしていくことができます。後ほど解説していくエントリーに関しても、基本的な流れはあっても、それらはあくまで「基本」であって絶対的なものではなく、目の前のディフェンスの守り方に合わせてプレーが変わっていくのがPrinceton Offenseです。そういう意味でも、オフボールの1対1だけではなく、チームとしても「目の前のディフェンスを見れば自分が何をすべきか分かる」と言えます。そのためには、 相手のあらゆる守り方に対応できるように準備しておく必要があります。

 

「シンプルなオフェンス」p108

私はプリンストン時代、アンディーズターバン(Andy’s Tavern)というバーに通っていたが、クリニックの前夜にそこに立ち寄った。席に座ると、ウィスキー・スティーブ、ポテト・マイク、リトル・ジョー、そしてオーナーのアンクル・ジョーなどの友人がいた。店に入るとき、彼らは「こんばんは、コーチ」と私に声をかけ、私は「よお、みんな、明日のセントルイスのクリニックでオフェンスの講習会を頼まれたんだが、何か良いアイディアはないか?」と尋ねた。半分酔っぱらって聞いていたウィスキー・スティーブが私を見てろれるの回らない舌でこう言った。「自分の向かう場所を良く見ろと注意しろ」と。私は、はっとした。その通りだったのである。それがオフェンスの基礎であり、全てなのである。選手は自分の役割を理解して、自分が向かおうとする場所に注意を払わなければならないのである。プレーを試みるときにそのオプションとなるプレーを準備しておくことで、相手チームがプレーを阻止してきた際に、別のプレーができるのである。我々は、起こりうるすべての可能性に対応できるプレーの流れや動きを作り出すことに努力を払う必要がある。チャレンジとは、創造性とそれに応える能力を備え、新しい選択肢を有効に使うことである。選手は起こりうるあらゆる可能性を理解しなければいけないのである。

 

このタイトルの「シンプルなオフェンス」の原文は「Our Offense Simplified」です。「”私たちの”オフェンスはシンプルである」と言っているのです。Princeton Offenseは複雑なシステムに思えるけれど、やっていることは「目の前のディフェンスとの駆け引き」、もっと具体的に分かりやすく言えば「表か裏かの駆け引き」をしているに過ぎない、とCarrilさんは言っているのではないかと思います。

 

この引用文の最後もとても大切です。”選手が”起こりうるあらゆる可能性を理解しなければいけない、と言っています。コーチだけではなく選手も自分たちのオフェンスを深く理解することで初めてPrinceton Offenseのようなオフェンスを創り上げることができるという事です。

 

「強みを生かせ」p160

プリンストン大学が優れたスピードを持つチームであれば、コート全体を使い、速攻ーショットというスタイルをとっていただろう。しかし、我々にはスピードがないので、ハーフコートずつ丁寧にボールを進める方法をとっている。ディフェンスに力を入れてプレーしているため、我々のスローなスタイルのオフェンスは、ゲーム全体のペースをつかみやすくしている。パス、カット、ショット1つ1つを大切にし、確実に成功率の高いショットを狙う。重要な事は、毎回ショットを確実に決めることだ。我々は忍耐強く、訓練されている。このようなプレーを時代遅れだというのなら、私は有罪である。自分の持っている強みをアドバンテージとして利用する。マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)やソフィア・ローレン(Sophia Loren)もしていたことである。自分のチームがスピードに長けているのにもかかわらず、スピードを生かしたプレーをしないほど馬鹿げたことはない。自分のチームがスローであれば、スピーディなチームになることを避けなければならない。

 

ここも非常に勘違いされやすくポイントです。プリンストン大学が行っていたPrinceton Offenseは「遅攻」と呼ばれるようなオフェンスでした。ほとんど速攻を狙わず、1つのシュートを打つためにじっくり時間を使う。そのようなオフェンスをしていたは事実なのですが、その背景には「選手の強みを活かす」という考え方がありました。

 

Carrilさんは「自分達のチームがスピードに長けているのならスピードを活かしたオフェンスをすべきだ」と言ってます。あくまで、答えは目の前の選手たちがもっている。そこを大前提にオフェンスを組み立てなければ「Princeton Offenseという形に囚われてしまう」「選手の能力を最大限発揮させることができない」という結果になってしまいます。ここはとても大きな落とし穴なので、Princeton Offenseを学ぶ前にきちんと理解しておく必要があります。

 

これらを踏まえて、オフェンスのエントリーを解説していきます。

 

 

Princeton Offese②「エントリー基礎オプション」


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